おねいさんず

□好きだから
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好きだから、言えない。

こんな気持ちは
きっと佐紀ちゃんを困らせる。






「みや、これやばくない?」








今日も朝からお仕事。
楽屋にベリ全員が集合していた。


いつもと変わらない日常
当然かのように佐紀ちゃんはみやにべったりとくっつき雑誌を嬉しそうに見せていた。



私はというと、くまいちゃんのくまくましいエピソードを聞き流しつつ

誰にも気づかれないように佐紀ちゃんを見つめる。





いつも佐紀ちゃんはみやばっかだ

ライブでも、イベントでも一番好きなメンバーは?という質問にみやを選ぶ。


それが悔しくて、虚しい。
自分は佐紀ちゃんの何番めのメンバーなんだろうな、なんて
勝手に考えて勝手に凹む。


きっと私は最下位だろう。


いくらおなじグループで何年も活動してるからといって結局優先順位ってあるわけで。

好き、嫌い、じゃなくて誰といるのが楽しいか。って順位をつけるならば


連絡も遅い、プライベートでは社交性もない私には


友達が多くてマメな彼女からすれば仕事じゃなければ知り合いもしなかったであろう人種で、


当然趣味が違う分、仕事の話が多くなる私といたってとても楽しい相手とはならないだろう。



でも、佐紀ちゃんの一番になりたい。


友達でもいい、メンバーとしてでもいい。
何かしら彼女の中の特別になりたい。





ぐるぐるそんなことを考えていたら、

撮影のために1人、2人と楽屋から出て行くメンバー。


くまくまとしゃべっていた熊井ちょーも、出番のようで


「じゃあもも、いってくるねー」

なんて言って出て行ってしまった





なにやら年齢ごとでくくられてるみたいで、


佐紀ちゃんと2人きりになった。






みやみたいに、
もっと近づきたい。





そう思いながら習慣とは怖いもので




「またおねいさんずだね?」

何故かニヤニヤしながら佐紀ちゃんに話しかける。

「なに?嬉しそうだね。」


嬉しいに決まってんじゃん。
好きな人と2人っきりだよ?


つい口に出してしまいそうだったけど言わなかった。



「んー?嬉しいよ!ももね、佐紀ちゃん大好きだもん。」


また、いつもみたいにおどけて笑う。

さきちゃんはそれを咎めるように

「まーた。口から嘘がポロポロでてくるんだから!はいはいありがとー。」

と軽く笑う。





2人とも元いた席から動かない。
軽く冗談を言い合って、テキトーに好きだなんだと茶化す。






私たちの関係はこんなもの。

べたべたくっついて雑誌を見せ合いっこしたりしない。

好きだよって冗談でも言い合ったりしない。

あくまでメンバー、あくまで仕事仲間。





でも、これでいい。





みやみたいになれなくたって
はなからさきちゃんに気持ちを伝える気はないから。



好きな人を驚かせたくない。
嫌われたくない。
仕事相手としての信頼を崩したくない。




恋なんて、結局は自己満足だ。
相手が望んでるとは限らないから。



残った理性で必死に気持ちをこらえてきて、

かれこれ5年は経つ。



さきちゃんがもう私たちの番だよと立ち上がる。







「………好きだよ。佐紀ちゃん」


「ん?なんかいった?急ぐよ、もも!」

「んーん、なんにも。がんばろーね」




こうやって聞こえないだろうタイミングで本音を言う。
それが私を少しだけ楽にさせてくれるから。






伝える気なんてない。でも諦めきれない。



好きだよ。
この言葉の真意は一生彼女に伝わらない。

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