禁断の書(NOVEL)

□酒場にて【171105完結】
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立ち寄った町の酒場で皆で食事をという話になった。

食事が終わり、だが、誰もが自室には引きこもらずだらだらと酒や茶を飲んでいると酒場の踊り子がショーが始まるからとイレブン、カミュ、セーニャを舞台にあげた。
最初イレブンは戸惑ったように照れた笑いを浮かべたが、カミュが留め、三人は他の踊り子や楽隊と共に奏でられる音楽に合わせて歌ったり踊ったり始めた。
時折カミュがイレブンの耳元で何かをささやくと楽しそうに返事をし、またセーニャとも笑いあっている。
「『あー。俺の剣に近すぎるぞ。離れろ、若造』」
少し離れたテーブルで腕を組んでそれを眺めていたグレイグの背後からグレイグの口調を真似た声色が聞こえた。
「って、顔してる。」
はい、貴方のカップも空よ?と葡萄酒の入ったカップをグレイグに渡しながらシルビアがグレイグの隣に座った。
「・・・妄想だ」
苦虫をつぶしたような顔で答える。
「楽しそう。アタシはあの子たちの楽しそうな顔を見ていると嬉しくなるわ」
大樹が崩壊し、ウルノーガがこの世界を支配している。魔物も強く、多く、旅の途中で一時も気を許すことができない。
特にイレブンは勇者としての責任感からか旅路ではあまり笑わなくなっていた。
久しぶりにみる、イレブンの笑顔だった。
「・・・一時の平和か」
「一時じゃなく、永久にするのよ。でも、今は一時ね・・・」
カップの酒を一口飲むと、そこに視線を落としながらシルビアは言った。
「イレブンちゃん、不思議な子。・・・勇者だからそうなのかもしれないけど、彼が笑うとふんわりと光が差す気がするわ。活力が貰えるというか・・・天然のホイミって感じ」
「無口で、何を考えているかよくわからない時が多いけどな」
「ベロニカちゃんにも良く『何ぼんやりしてるのよ!』って叱られてたな」
ふふふとシルビアは気の強かったベロニカの口調をまねる。
もう会えない、大切な仲間。
でも皆の心に彼女が占める割合は大きい。
「アタシは思うの。イレブンちゃんはぼんやりしているわけではなく、何か・・・そう、私達には見えない何かを見ていて、何かを決めかねてるんじゃないかって。」
その決断は勇者の仕事であると、誰にも相談できずに考え込んでいるんじゃないかって。
「思うのよねえ・・・」
シルビアの端正な横顔が少しだけ曇る。
ちらりと横目で見てグレイグは酒を一気にあおった。
「わかっとる。・・・我が『主』だ。」
盾として一番近くにいると自負している。
彼の様子がおかしいことは当の昔に気づいている。
「ベッドの中で、本音を言わせて見せるって?」
にやりとシルビアが笑う。
「はあ?ゴリアテ!」
一瞬ふっと頭に血が上った。
つい大声を出してしまう。
「・・・今日の部屋割りのくじ引きはずるがなかったと思ってるけど、グレイグ、悪運強いわね。またイレブンちゃんと一緒。」
そんな彼の態度には気づかないふりをして、シルビアは涼し気に続けた。
「ふん。」
「まあ、明日はゆっくり出発だから、いいんじゃない?」
「いや、だから、お前は誤解をしている。・・・本当に、誤解だ」
「ふーん。じゃあ、グレイグの片思い?」
「・・・いや、多分それはクリアして・・・あ、何を言わせる!」
「まあ、成人しているとはいえ、イレブンちゃんと貴方20才違うしね。色々悩むわよね。」
「だから、ゴリアテ!」
「なんの話?」
ふんわりとシルビアの後ろから誰かが抱き着いた。
見るとイレブンのサラサラとした髪の毛がシルビアの首元を覆っていた。
「あらイレブンちゃん。歌、上手だったわよ。」
「ありがとう。シルビア」
シルビアに優しく答えるがグレイグにはちらりと冷たい視線を投げる。
シルビアがイレブンの腕に自分の手を添えた。
それを見るとグレイグは自分の心にもやがかかったことに気づく。
持っていたカップを乱暴にテーブルに置くと、
「・・・イレブン、帰るぞ!」
グレイグは立ち上がりイレブンの腕をシルビアから引き離した。
「グレイグ・・・」
「じゃあなゴリアテ、お前たちもあまり遅くならないようにな」
「はいはい。」
ひらひらとシルビアは手を振り二人を見送った。
「・・・楽しい夜を」
目を細めて笑う。そして二人には聞こえない声でつぶやく。
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