欅坂46 短編

□存在
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「理佐…」



携帯の待ち受け画面に写っている愛しい人の名前を呟いて、
私は大きくため息を吐いた。




会いた


そこまで打って私は「い」が押せなかった。


アイドルの1日は忙しい。
グループで仕事する時もあるし、個々で仕事する時もある。


そして、モデルの仕事もしている理佐は
私が忙しいと表すなら、超忙しいんだ。



アイドルは寝る時間がない。
バスで移動となるとカーテンを締め切られ、
どこにいるのか分からない時がある。


移動時間しか寝る暇がない。
だから、私と理佐は隣にいても理佐は寝ている。


理佐がモデルをしている事は嬉しい。
本人も楽しそうにモデル業をしているので、
喜ばしいことだと思う。



ただ、少し・・・私は寂しさを感じていた。



『寂しい』



なんて・・・そんなことは言えなかった。


恥ずかしいからとかそんなんじゃなくて、
理佐が私何かのために時間を割いて欲しくなかった。


そんな時間があるのなら、休んで欲しい。


理佐が元気でいることが私の幸せでもあるのだから。


そう考えていても、心のどこかで寂しさを感じていて、私はフルフルと頭を振った。


卒業したら離れ離れになるのは分かっているし、
グループが一緒でも個々の仕事がある私達は会う機会は冠番組か、
レッスンぐらいしかない。


いつも一緒にいた理佐が私の遠い場所に行ってしまうことが

・・・私には恐くて仕方がなかった。

いずれ来る「別れ」を私はまだ受け入れたくなかった。


ただ、私の側で「愛佳」って笑って、
名前を呼んで、側にいて欲しい。


これが我儘だと分かっているから私は尚更、メールを送れなかった。


「あれ、愛佳こんなとこにいたの? 理佐来てるよ?」


狭い楽屋で膝を抱えて携帯とにらめっこしていた私に、鞄を背負った茜が声を掛けて来て、
私は「理佐」という名前に反応すると
俯いていた顔を上げ、楽屋を飛び出していた。


「理佐っ」


会いたくて、会いたくてたまらなかった。抑えられなかった。


私は闇雲にスタジオ内を走った。


会いたかった


会って抱き締めて、私の名前を呼んで欲しかった。


私の頭の中は理佐でいっぱいで、
会いたいというそれだけの思いで私はただひたすらに走った。


「理佐!」


やっと見つけた姿に私は抱き付いた。


「愛佳」


会いたかった。
理佐は私の名前を呼んで、強く抱き締めてくれた

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