企画&他キャラ短編集

□名前で呼んで
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(忠臣side)


「ねぇ、総帥ちょっといい?」
「……なんだ」


 アリーナの帰り、るうに呼び止められた。
その時ふと気づいたのが、るうはいつも我を名前で呼ばないことだった。
恋仲であるというのに。
いつの間にかあだ名と化した“総帥”という呼び名でずっと呼ばれている。
思い出してみれば、我を名前で呼んだことなど、初めて会った時くらいだろうか。
そのことが少しばかり面白くなく、普段よりも低い、不機嫌さを滲ませた声で返事をしてしまった。


「これ、デッキ考えたんだけどどう思う?」
「ああ、デッキか。どれ、見せてみろ」


 いけないと思い直し、いつも通りに話し始める。
向こうはこちらの様子に気付くことなく真剣にデッキの相談をしている。
しかし、一度気になりだすと気になって仕方がない。
話も終わったようだし、ここは素直に言ってみるか。


「るう、総帥ではなく忠臣と呼べ」
「え?」


きょとんとしたるうの声が響いた。




(夢主side)


 名前で呼べ、と言われてからというもの、忠臣と呼ばなければ反応してくれなくなった。


「ねぇ、総帥……総帥ってば………………忠臣」
「なんだ」
「もー……総帥でもいいだろ」


 まったく、どうしたものか。
名前で呼んでやれば良いのだが,今更に名前を呼ぶのが少しばかり恥ずかしい。


「そういうわけにはいかん。こうでもしなければ貴様直さんだろう」
「う゛……そうだけど、慣れないというか、何というか」


 困って口ごもると、クスクスと笑いだし、ふわりと頭に手を置いた。
忠臣を見上げれば、柔らかく目を細めて笑んでいる。


「フフ、貴様は愛いなぁ。呼び名1つでそう照れる必要もあるまい」
「べ、別に照れてない。ちょっと……あれだよ、慣れてないだけで」
「そうか、では慣れれば問題ないな」


 そう言って忠臣はアリーナへ出かけて行った。
先程忠臣の発した“愛い”という言葉を反芻してしまい頬が熱くなるのがよく分かる。
どうしようもない気恥ずかしさから「はあぁ……」とため息をついて紛らわすと、ジャンヌちゃんがクスリと笑った。


「フフフ、すみません。つい微笑ましくて。確かに、るうさんはいつも総帥とお呼びしていますもんね」
「うん、今更だから直さなくても良いと思うんだけどなあ」
「きっと、恋人には名で呼んでほしいのですよ」
「うーん……慣れないんだよな。しかも急に言い出すし、何企んでるんだろ……」
「フフ、頑張ってください」


にこりとジャンヌが笑いかけてくれた。
何とも言えない気恥ずかしさに、頬がさらに熱を帯びた。
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