短編集

□手を繋いで
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 久しぶりのメンテナンスでバトルが出来ず時間が空き、ふらふらと街を練り歩いていた。
珍しく早起きをして街へ繰り出し、色々な店を見て回った。
普段アリーナに行くか部屋に籠るしかしなので物珍しさに随分と遠くまで歩いてきてしまった。
時間が流れるのは早いものでもう日暮れに差し掛かっていた。
夕飯の時間に遅れぬよう帰路に就こうと居住区エリアへと足を向ける。


「るうか?」
「ん?ああ、グスタフか。外出なんて珍しい。」
「お前こそな。最近まともに外に出ていないだろう。」
「その言葉そっくりそのまま返すよ」


 帰りがけ、グスタフと出会った。
後ろから声を掛けられて割とびっくりした。
人気もまばらなこの時間を見計らって出てきたのだろう。


「これからどっか行くの?」
「いや、少し外の空気を吸いに来ただけだ。
…メンテナンス中は暇だな。」


 グスタフはいまだに暇を持て余しがちらしい。
兵器としてずっと戦場を駆けていたらしいので、こういう穏やかな時間の過ごし方を思いあぐねているようだった。


「それにしても随分買ったな…。」
「あっ…持つから大丈夫だよ」


 私の買い込んだ両手の荷物をさり気なく持とうとする。
さすがは外国育ちと言うべきか、さりげなく気を利かせてくる。


「持つ。大人しく渡せ。」
「いや、いいから!自分で持つから!」
「何でそんな頑ななんだ…。
女だけに荷物を持たせておくはけには…」
「うーん…慣れてないんだよ、そういうの。」


 お互い荷物を握ったまま、一歩も引こうとしずに膠着状態になった。
グスタフも困った顔で、私も持ってもらう罪悪感でいたたまれない。
しかしこのままでは埒が明かないと思い折衷案を提案する。


「じゃあ、半分持って!私も半分持つから」
「…そうだな、そうするか。こっち持つぞ。」
「うん、ありがとう」


 何かと膠着状態から脱して、帰路に就く。
冬に差し掛かった日暮れ時は酷く冷え込み、冷たい空気が体温を奪っていく。
寒さでヒリヒリとかじかむ手に吐息を掛けた。
気休めだがやらないよりは少しばかりましになった。
吐く息は白いもやになって消えていく。
グスタフの方を見ると珍しく私服で、彼の手はいつものスーツを纏っておらず、肌がむき出しになっていた。
寒いらしく指先を握りしめている。


「…今日は冷えるな」
「うん、寒いね…もっと防寒してくるべきだったなぁ」


 ぽつりぽつりと今日あったこと、最近面白かったことなどを話す。
取り留めのない会話で、さして盛り上がるわけでもないが穏やかに交わされる会話に頬が緩む。
空が夕焼けから夜のグラデーションを作る様を見上げる。
今日は、何だか良い気分だ。
寒そうに手を握りしめたままの彼の手を見やって口を開いた。


「手、冷える?」


 荷物の持っていない方の手を差し出してみた。
グスタフは驚いたように目を丸めていた。
そして差し出した手に彼の手が重ねられる。
酷く冷えた手はどちらが冷えているのか分からなかったが、触れ合う手から体温が伝わりじわじわと温かくなっていく。
手だけではなく体が沸き立つように熱くなり、皮膚を撫でていく冷風が心地よくさえ感じた。
 ちらりと隣を見るとマスクに隠された顔は良く見えないが、眉間のしわが緩んでいる。
手を離さないあたり嫌ではないのだろうと思うと少し安堵した。


「そういえば、昨日――……」


 再びぽつりと会話を始めた。
いつもアリーナで戦ってばかりだからたまにはこういう静かで穏やかな時間をグスタフと過ごすのも悪くない。
グスタフが暇を持て余していたら紛らわせてやろう、と思った。
手を繋がれたまま続く会話に幸せを感じつつ、帰路を辿った。



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