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□冬東京
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彼女がボクのゼミを選んだ理由はふたつあった。

ひとつは、純粋に彼女の研究分野だから。

もうひとつは、彼のゼミに入ったら研究どころではいられないから。

彼女はとっくに彼しか見えていなかった。

彼は彼女が自分のところに来なかったのを苛立っていたよ。

そう……彼も既に彼女を愛してた、また自覚してなかったんだけどね。



そして繰り返す。

彼は己が身を滅ぼすようなやり方で彼女を愛し、彼女はそれにズタズタになりながら彼を愛した。



少しは考えてほしいよ。

神様だった頃じゃないんだよ?

お互い人間なんだ。



彼らはスキャンダルの的になった。

他人が陰口を言うのを見れば、そんな奴らの目の前で彼は見せつけるように堂々と彼女を抱いてみせた。

キャンパス内で講師と学生の人目を憚らない抱擁なんて、問題外だから!

それに30歳目前の男が20歳超えたばかりの女の子を相手にそんなことしてたら悪い噂しか立たないよ。



ボクは彼が好きだった。

今でも……今の彼も好きだ。

ボクは彼女を好きになった。

今の……彼女は……。

ああ、前世は諦めたけれど、今度は奪いとってしまおうか。

ボクがどんなに彼らを好きでも。

彼女が愛してるのは彼だとしても。

今のボクなら、今の彼より、今の彼女を上手に愛せるはずだ。











真冬のキャンパス。

冷たい粉雪の散り始めた誰も居ないベンチで彼女は座っていた。

自分の身体を自分の腕で抱きしめて。

その姿が辛そうに見えるのはボクの気のせいじゃないよね?



「龍姫くん」



「あっ……」



ほら、泣いているじゃないか。



「何も言わなくていいよ。
また……彼のことなんだろう?
彼とも長い付き合いになるけど、こんなに女の子の扱いが下手なヤツだとは思わなかった」



……嘘だよ、前世から知っていた。



「それで?
雪の降る外で座り込んでいて、何かいいことがあるの?」



「え? 雪? ……あ、ホントに……」



それさえ気付いていなかった?



「粉雪とはいえ、頭にも肩にもうっすら積もるほど、雪の中にいるなんて。
傘地蔵にでもなるつもり?
キミ、まさか、日本文学に鞍替えするつもりじゃないだろうね。
数少ない北欧文学研究者の卵をボクは講師として手放すわけにはいかないんだけどな」



……嘘だよ、ひとりの女性として手に入れたいんだ。



「龍姫くん……いや、龍姫!」



冷え切った身体を抱いた。

驚いたキミが身を捩る。

けど離すつもりは無い。



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