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□THE ONE
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指先で涙を拭われて初めて、自分が泣いていたことに気付いた。



「ふん、可笑しなヤツだ。
ずっと私を見ながら百面相をしていたかと思えば、また、笑ったり、泣いたり」



「え? 百面相?」



「していただろう?
私が考え事をしている間中、私の顔を見ながら。
私の顔はそれほど興味深いか?」



……気付かれていた?

ううん、そうじゃなくてっ!



「お、お邪魔してすみません!」



「邪魔だとは言っていない。
いや、むしろ……」



頬に添えられていた手が私の頭を引き寄せて。

私はヴァーリ様の腕のなかに倒れ込んだ。



「むしろ……。
早くこうしてやりたくて、仕事が捗る」



甘い、香り。

そんなに強いわけでもないのに頭がクラクラする。

何も考えられなくなりそうに。



「余計なことは考えるな。
君は、いろいろと考え過ぎだ、龍姫」



ヴァーリ様のアイスブルーの瞳が覗き込む。



「君が居ることは邪魔にならない。
もっとも、あの親父やヴィーザルのように騒ぎ立てるなら話は別だがな。
それから、私はどこにも行かない。
だから、あんな不安そうな目で見なくてもいい。
私が君を置き去りにしたことなど、無いだろう?」



ヴァーリ様は気付いていた?

目の前の書物とお仕事だけで無く、私のことも気にかけて……?



答える前に唇を接吻けで塞がれた。



甘い、接吻け。

甘い、香り。



ヴァーリ様、好きです。

どうしようも無く貴方が好きです。



また……胸が苦しくなる。



「ヴァーリ様……」



「なんだ?」



「苦しい……。
ヴァーリ様が好き過ぎて。
苦しいんです」



どんな時もそらされることの無いヴァーリ様の瞳が、一瞬、揺れた。

薄い唇が緩く笑みの形にカーブを描く。



「……ならば。
もう、私に溺れてしまえ。
何も考えられなくなるまで、君を満たしてやろう。龍姫」



甘い囁きに気が遠くなる。



そして、私は、ヴァーリ様の……。



腕に。

指に。

瞳に。

声に。

唇に。

香りに。



ヴァーリ様のすべてに……囚われた。





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