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□悪女
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この地の神々の宴好き……いや、酒好きでもあるが。
派手好きなオーディンのせいで、宴は毎回、これが神かとうんざりするほど威厳の無い大騒ぎだ。
とりあえず一通りの神に挨拶を済ませたら少し静かなところに移ろう……として、そこに居るはずの無い姿を見つけた。
「ナビィ……。
なぜ君がここに居る?」
酒ではなくもっぱら料理を次から次へと頬張っていたナビィは、突然声をかけられて慌てていた。
「あはは、ナビィ、キミちょっと落ち着いて」
横からのびてきた手が咽せるナビィに飲み物を渡し背中をさする。
ヘイムダルか。
「ボクが連れてきたんだ。
どうせ、ここの連中、飲んだくればかりで、せっかくの美味しいもの残ったら勿体ないでしょ」
ああ、確かに。
一応、宴にはこういう甘いものも用意されるが、酒がすすめば残される。
だが。
問題はそこでは無い。
「ナビィ、君は龍姫と約束があったのではないのか」
やっと口いっぱいに詰め込んでいたものを飲み下したナビィは、不思議そうに私を見つめた。
「いいえ?
ナビィ、今日は龍姫様とお約束は無いです〜」
龍姫、と。
口に出したことで、逆に私をじっと見つめてくるナビィとヘイムダルの視線を、 眼鏡越しに手を当てて遮った。
ここに来る前の、一瞬見せた龍姫の不可思議な笑顔、そして、行動。
ああ……。
そうか……。
「ヘイムダル、私は今日は帰る」
その一言で何かを察したらしいヘイムダルが面白そうに「へぇ……」と声をもらした。
だが、私は歩き出した足を止めることはしない。
……まったく。
馬鹿な女だ。
神々との付き合いを投げ出さなくなった私のために、寂しさをこらえて私を送り出すなど。
袖口を掴んだ、あの時に。
「行かないで」と言えばいいものを。
君に、私の傍から離れて平気な女のふりは出来ない。
たとえつまらない嘘をついても。
君は、私の前で悪女に成りきる事は出来ない。
真っ先に……。
君にそれを教えてやろう。
BGM:中島みゆき
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