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□ハーフムーンはときめき色
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なんて綺麗なんだろう、月の光を浴びたヴァーリ様が。
なんて、神々しい。
銀糸の髪は月の雫を纏うように輝いて。
見なくてもわかる、その硬質で怖いほど整いすぎた貌はきっと正視すら出来ない、見れば呼吸さえ忘れる。
月光のなかに浮かび上がる肩のライン、長い腕、高い背のすらりとした躯、足下から伸びた影に劣らない長い脚。
溜め息さえ吐けない。
見つめているだけで息が止まる。
ただでさえ外見も内面も素晴らしいヴァーリ様なのに、月の光のなかに立つヴァーリ様はその半分……外見だけで私を圧倒する。
そんなヴァーリ様を見つめていられるのは、歓喜、で。
でも容赦無くヴァーリ様が神である事実を突きつける。
いつか手の届かない場所に行ってしまわれそうで。
そうでなくでも……。
今すぐにでも月光に融けてしまわれそうで。
だから、怖かった。
必死でヴァーリ様の背中にしがみついた。
「……龍姫? どうしたんだ」
肩越しに振り返る気配。
少し驚いた声音。
いつもなら落ち着いて「なんだ」と返すはずの言葉は「どうしたんだ?」とあきらかに惑いを表して。
「……いかな…いで……」
「は……!?」
「消えて、いかないで……。
私を置いていかないで下さい、ヴァーリ様っ!
私のついて行けない場所に、嫌です、そんなの! 私耐えられない! 壊れてしまう!」
「お……、おい、待て。
突然、何を言っているんだ。
落ち着け、龍姫」
らしくないヴァーリ様の焦り。
でも止まらない、溢れ出した想いは一度決壊してしまえば止まらない。
「ヴァーリ様、イヤ!
私、イヤです! ヴァーリ様が消えてしまったら、私…わ、たし、いや…い、いや……」
ヴァーリ様の長い腕が私を無理矢理に引き剥がす。
微少かな温もりさえ遠ざけられて一瞬で絶望してしまいかける私の身体を、慌てるように長い腕が包み込む。
錯乱したように喚き散らして止まらない唇を、思考ごと、身体ごと、無理矢理にヴァーリ様の胸に押しつけさせられて、私はその場に固まった。
「……まったく。
落ち着け、いったい何がどうしてこうなった?
龍姫、君の考えることは時々この私でも理解を超える」
その言葉と抱きしめられた腕の強さに、一瞬で正気を取り戻した。
けれど、疑問の形で問いかけておきながら回答は不要だとばかりにヴァーリ様の腕の拘束は緩まない。
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