short2

□夢で逢えたら
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投げ出されたスマートフォン。

いつの間にか眠りに落ちていた彼女は、猫のように器用に丸まっている。



スマートフォンに彼女のものではない長い指が触れた。

光を取り戻した画面に映るのは、美しい雪の森を背景に立つ長身の神の姿。

ゲーム画面ですらない。

ダウンロードしたその画像をひたすら眺めながら彼女は寝落ちしてしまったのだろう。



「ヴァー……リ、さま」



突然、彼女が寝言を呟いた。

それは奇しくも今映し出された神の名前。



画面から離れた指が、彼女の髪を梳いて額に触れた。

触れた指先から流れ込む彼女の夢。

煌めく夢の森に立つ、銀糸の髪と氷河の色を映した瞳。

それは画像と同じようでいて、でも、柔らかい眼差しで彼女に手を差し伸べていた。



「くっ……」



漏れた声を咎めるように、彼女の額から離された指はその声を漏らした口元を覆う、反射的に。



「……私、は。
君の前ではそんな弛んだ顔を晒すようになってしまう、のか?」



戒める手の下でそんな呟きが漏れた。



「ふんっ、まあいい」



続く自嘲するような声とともに、またその指は彼女の髪を梳く。

その一房が指に絡め取られて、薄い唇が押し当てられた。



「早く来たまえ。
そんな機械越しではなく。
夢のなかでもなく。
現実に、私の傍に。
……だいたい、私は時間厳守だと言ったはずだぞ。
私をこれほど待たせるんだ、君の評価は0点からだからな。
早く……来い、龍姫」



愉しそうでいてどこか切なげな声が消えた時。

彼女の部屋から眩い光が一瞬輝いて……消えた。








BGM:大瀧詠一
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