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□君の選んだ小さな傘
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仕事という名の宴会が終わって親父の館を出たのはもう明け方近く。
酔い覚ましも兼ねて歩く草原。
煩わしいこと……主に親父だが…を避けるためにわざと中央から離して建てた私の館だが、馬鹿騒ぎに疲れた頭を気分転換させながら帰るにはちょうど良い距離に在った。
我ながら、良い場所を選んだものだ。
もっとも、館を建てた頃には、こんなふうに親父や他の神に頻繁に付き合わされることになるとは思わなかったし付き合うつもりも無かったが。
「私も変わったな」
変えたのは、たったひとりの女。
ある時目覚めれば私の前にはひとりの女が居て、その横から羽根の生えた小娘が覗きこんでいて……私は魔神とやらに石の中に閉じ込められていたのを彼女達に解放され、同じように他の神達も解放しているのだと教えられた。
それは我々の運命を一変させた。
解放という形で失われてしまった神を取り戻し、“識る”という欲に抗えなかった親父が代償に得てしまった我々の滅亡の運命までも覆した。
もう滅亡に向かって進む必要は無い。
もう滅亡の気配に神経を尖らせる必要は無い。
それは私にとっては他の世界の神々に教えられた“理想郷”そのものだった。
そして、もうひとつ。
私を解放した女は私の手に落ちてきた。
親父にカチコチ頭だ朴念仁だと揶揄われる私のどこを気に入ったのか、あの女は……。
いや、私が言うのもなんだが、私に恋焦がれて心を壊してしまうほどに想い詰めていたくせに、私の前でだけは必死に平気な振りをしてみせていたんだ、あの女は。
まったく。
早く素直になっていれば、私だってあの女のことは気に入っていたんだし好意が無かったわけでは無いし、そもそも私は「君のことを気に入った」と言ったし、傍に居ろとか私のところに来るのを疎かにするなとあれほど何度も……。
まあ、それさえも言葉足らずだと、親父はおろか他の神、他の世界の神々にまで口を揃えて言われたわけだが。
そんなことを考えながら歩いていたら、館に着いた。
ちょうど、草原を潤す霧のような雨が音も無く辺りに降り落ち始めた。
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