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□恋は行方不明
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その館の主は生真面目で厳格なのに、訪れる者は大抵が突然の訪問だった。

そんな野放図な客達に、館の主は、ある時は唇を歪め、ある時は煩く説教をする。

でも、今日の客へのそれはそんないつもの対応とは違っていた。



「今日は何をするつもりで来た?
言っておくが、眼鏡は貸さないぞ」



苦笑いを浮かべるヴァーリ。

ゆったりとしたソファーに腰を降ろして、脚を組む。

充分にテーブルから離れていてそれでも窮屈げな長い脚を持て余している。



そのテーブルの向こうには我が物顔にくつろぐ客。

小柄な身体を半ば露わにするようなきわどい衣装を身に着けた、女神。



「ヴァーリったら、ひっどいなー!
せっかくアタシが来てあげたのにそんなこと言うんだー!?」



「君が訪ねてきて悪戯をされないことは無いからな、シギュン」



そう言いながらもヴァーリの声に拒絶の色は無い。

目の前の女神……シギュン……の悪戯を、許容し、面白がってでもいるように。



「そんなことは無いよ。
アタシが来てあげなきゃ、アンタ閉じこもりの本の虫になっちゃうジャン!
アタシはアンタのために遊びに来てあげてんだから」



ガチャリ、と。

テーブルに置かれたティーカップのソーサーが耳障りな音をたてた。



「っ……申し訳ありません」



ティーカップの中の琥珀色が揺れる。
龍姫の動揺を映したように。



シギュンが訪ねてきて応接室のソファーセットに案内してから、龍姫は無言でお茶の支度をしていた。

龍姫らしい几帳面さで淹れられたお茶は、本来なら来客と主の邪魔にならないよう完璧にそのテーブルに置かれるはずだった。

かろうじて零されることの無かったお茶を、シギュンは早速その手に持ち、待ち切れないように冷まして飲もうとする。



「ありがと!
ここのお茶、美味しいって評判だもんね」



何事にも根を詰めてしまうヴァーリがくつろぐ時のためにと龍姫が用意しているお茶。

ヴァーリがゆっくりとその香りを楽しむ時間を持てるようにほんの少しだけ熱めにするのに慣れたお茶を、今、シギュンがせっかちに啜る。



「アンタは一緒に飲まないの?」



シギュンの丸い大きな瞳が、龍姫に向けられた。



「……いいえ、私は同席する立場にありませんから」



ティーワゴンの傍らに佇む龍姫は、少し表情を強張らせたけれどすぐに冷静な口調で答えた。



「ふーん?」



シギュンは唇を尖らせてみせた。

コケティッシュなその仕草は、面白そうにも、おどけているようにも見える。

ただ、龍姫にだけはそれが自分を揶揄っているようにしか見えなかったのだけれど。


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