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□殿方ごめん遊ばせ
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重く降り積もるような静寂。

日付が変わる瞬間に近付く今、いつもと変わらないはずなのに何かが違って思えるのは、今日を去年に明日を来年にする特別な夜だから?

そう思えば、湯煙越しに見る、夜空のカーテンに散りばめられた星達が急にチラチラと瞬いて、いつもとは違う自分になってみたくなる。



思いきって腕をのばせば触れられる距離。

そこには、少し顔を仰向け加減にして温泉の縁に寄りかかって、目を閉じたまま、さっきからずっと無言のヴァーリ様。

館の裏に露天風呂を作ってしまうほどに温泉好きなヴァーリ様が、ぬるめのお湯を楽しんでいる。

好きと言うよりは『温泉にはうるさい』のだと自ら言ってしまうくらいだから、それを堪能している間は邪魔をするのは気が引ける。



でも。



今夜くらいはいいですか?

日付が変わって初めてその瞳に映るものが私でありたい、なんて気持ちが私のなかで頭をもたげるから。

ねえ、ヴァーリ様。

今夜くらいは貴方を翻弄してもいいですか?



身体が熱くて呼吸が苦しいのは、きっと、温泉のせいじゃない。

ヴァーリ様に悪戯を仕掛ける、なんて……大胆なことを思いついてしまったから。

そう思って見れば、無言のヴァーリ様も何か企んでるんじゃないかって気さえする。

ずっと閉じられたままの瞳も、私を誘う罠かもしれない。



それなら、ごめんあそばせ。



そっとヴァーリ様の前に移る。

けれどヴァーリ様は身動ぎもしない。

何故?

出来るだけ水音を立てないようにしてはみても、いくらヴァーリ様が瞳を閉じていようと温泉を堪能していようと、気付かれないわけは無いのに。



……やっぱり、誘われていたの?



なんだか悔しくて。

腕をまわして。

ヴァーリ様の頭を抱え込むように抱きしめた。

温泉よりも私の胸に溺れてしまいなさい、とでも言うように。

行動の大胆さに反して、胸の鼓動に気付かれないかが心配だったけど。



「……私を窒息させる気か」



低くくぐもった声が胸元から聴こえて。

かかる吐息のくすぐったさよりも、その声の甘さに胸が震えた。



「大胆だな。
……君らしくない」



「こんな私は嫌いですか?」


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