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□寂しく私が見張るこの夜に
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「これは素晴らしい剣だな!
名のある神剣でもこれほどのものはなかなか無い。
この手に取って試せないのが悔しいくらいだ」
アーサーが羨ましそうに剣を見る。
あれから私と龍姫はケルトの地に来ていた。
アーサーは剣の目利きだと聞いていたし、もし私にしか握れないことに魔法的な理由があるのであればマーリンの助言を仰げるかと思ったからだ。
「神剣というほどではないが、元々は『神の業を行うもの‐トールギス‐』という名前が付いている」
「この柄の紋様には何か意味があるのか?」
「ああ、それは紋様ではない。
ヤドリギが巻きついて紋様のようになった。
それからはミスティルテインという名前で呼ばれてもいる」
怒り狂ったフリッグが切り倒したヤドリギ。
それがいつの間にか巻きついてきて紋様のようになっていた。
それもこの剣が神々に不吉と忌避された理由でもある。
「ミスティルテイン! あの伝説の!?
ミスティルテインは槍だという説もあったが剣だったのか?」
「かつて我が同胞のバルドルが害された時投げられたのがヤドリギの枝を削ったものだった。
そのヤドリギが巻きついた跡がこの紋様のようなものだ。
槍だという話が伝わっているならば、きっとそのためだろう」
アーサーが急に肩を落とした。
「すまない、ヴァーリ。
触れられたくないことだっただろうか」
バルドルの名を出したことでミスティルテインにまつわる話が気分の良いものではないと悟ったのだろう。
「気にしなくていい、アーサー。
少なくとも私はもう気にしてはいない」
アーサーの肩に手を置くと彼は素直に笑った。
この若い王のこうした裏表の無い素直なところが多くの騎士の忠誠を集めるのだろう。
そこにちょうど、マーリンと、着くなりマーリンに連れて行かれた龍姫が姿を現した。
「ヴァーリ様……」
龍姫の声が泣きそうになっている。
どうやらマーリンに無理矢理着せられたらしい……きらびやかなドレス姿と金色に染められた髪に唖然とした。
「どう? アーサー、ヴァーリ。
可愛らしいでしょう?
私、どうしても、龍姫に華やかなドレスを着せてみたかったのよ。
え? ああ、魔法は関係ないわ。
これは私の趣味、うふふ」
可愛いと言ってやるべきなのだろうが、とうの龍姫が微妙な表情をしているので躊躇われる。
アーサーのほうを見たら、同じことを考えていたのか、うっかり目があった。
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