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□あなたがたの近づき得ない遥かかなたの国に
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この光は……なんだ?



気付いた時には辺り一面を照らす眩い光に包まれていた。

そして、その中心に浮かぶ黄金の杯。



「これは……なんだ?」



光は杯とともに徐々に上昇していく。

あとに残されたものは、森、そして私。



「貴方は聖杯を見たのか?」



背後から声がかかった。

光とともに消えた杯を見上げていた目を向けると、光と同じ色の鎧を纏った男が立っていた。



「聖杯?
確かに光のなかに浮かぶ杯は見たが」



目の前の男の顔が奇妙に歪む。

それでも気品と柔和さを失うことの無い美貌。



「あの杯を見ることが出来るのは、聖杯の騎士だけなのだが……貴方は私達の仲間では無いな」



ということは、この男はその聖杯の騎士とやらなのか。



「ああ。
気がつけば光のなかに居た。
どうしてなのか、ここがどこなのかもわからん」



どうしてなのか……は、思い当たる可能性が無い訳でも無い。

過去にも異世界に飛ばされた。

あの時にも光に包まれた。

だが……。

あの時、飛ばされる直前の記憶ははっきりしていた。

今回のように訳もわからず光に包まれていたのは初めてだ。

それに、傍に居るはずの……。



「龍姫!?」



彼女が居ない。



「すまない、君! ……あ、っ……。
私の名はヴァーリだ。
君は?」



「私はローエングリン。
聖杯を守護する騎士パーツィバルの息子にして、自身も聖杯の騎士だ」



騎士……パーツィバル……。

私の記憶の中でそれに近い名前が浮かんだ。

アーサーに使える、まだ少年の騎士、彼の名は……。



「……パーシヴァル」



目の前の男……ローエングリンの表情が 変わる。



「それは……父の名だ。
海を渡った父の故国の発音だが。
貴方は父を知っているのか?」



普通に考えればこの青年の父親があの少年のわけは無い。

だが。

私がまた光に飛ばされたのだとしたら、刻も超えていておかしくは無い。



「ああ、多分、そうだろう。
会ったのはイングランドの地だったが」



「そうか、ここで父の友に会えるとは。
ところで、ヴァーリ。
貴方はさっき何か言いかけていたのでは無かったか?」



そうだ!



「私の傍に、女が居なかっただろうか?」



「いや、私が見た時、貴方はひとりだった」



……ローエングリンの言葉が絶望的に響く。

飛ばされる直前の記憶も無いうえに、龍姫と一緒でも無いとは。

過去飛ばされた時は龍姫の知識に助けられてなんとか切り抜けて元の世界に戻れたというのに。

私は……何もわからないここで、どうしたらいいんだ。



「ヴァーリ。
聖杯の光とともに現れた貴方は何か特別な存在なのかもしれない。
私も私の使命を果たすために聖杯の光に導かれこの地に来た。
良ければ、私と行動をともにしてくれないか?」



ローエングリンの申し出はありがたかった。



「ああ、よろしく頼む、ローエングリン」



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