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□あなたがたの近づき得ない遥かかなたの国に
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ローエングリンは、森の傍を流れる河に沿ってブラバント公国に行くと言った。



「この地アントウェルペンは今はブラバント公国が支配しているが、後継者問題が起きている。
私は身分を隠して公女エルザを助けなければならない」



「何故、身分を隠さなければならない?」



「聖杯に仕える騎士が聖杯以外に仕えるわけにはいかない。
そして、この役目の間中、聖杯の騎士であることを秘することで、代わりに聖杯の守護を受けられると定められたからだ」



そう話しながら河畔へ向かう私達の脚を、気味の悪い女の笑い声と少年らしき悲鳴が止めた。



「ほほほほほ!
その首飾りはもう外せない!
観念して死んでおしまい、ゴットフリート!」



ゴットフリートと呼ばれた少年は、首飾りを引き千切ろうとして千切れず、既に悲鳴さえ上げられずに悶絶していた。

状況を判断する前に飛び出していた。

いや、私のなかの何かがその女を許してはいけないと告げていた。



「やめろ!」



「なっ! お前、何者?」



「さあ、な。
だが、君を裁くべきなのは確かだ」



そう、これは。

裁きと断罪の神としての私の領分だと、私は感じていた。

と、同時に、私のなかから神気が放出された。



「ひっ! ひぃぃぃぃ」



その気に怯えたように女は逃げ出す。

あとを追おうとした私を止めたのはローエングリンの声だった。

振り返った私と、声を上げたローエングリンの、その目の前で。

首飾りをかけた少年が一羽の白鳥に変化していった。



「これは……どうしたんだ! ローエングリン」



「私にもわからない。
だが、ゴットフリートと呼ばれていたこの少年は、おそらく私が守らねばならない公女エルザの弟だろう。
私は公女エルザを助けブラバント公国の守護者として、この少年が公国を率いることが出来るようになるまで見守らなければならなかったのだが……」



それでは。

ローエングリンの役目は一歩目から躓いたということか。



「ヴァーリ! ブラバントへ急ぐ!」



少年が変化した白鳥を抱きかかえローエングリンは走り出した。

私はそのあとを追う。



その時にはもうこれがローエングリンだけの問題では無いことに気付いていた。

神としての私もまた、この少年を白鳥にしたあの女を裁かねばならないことを。



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