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□異次元飛行 〜α to ω〜
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それは異質な輝きだった。
この世界の理を引き裂く。
あまりに眩い黄金の光。
そんなものがあの場所に存在することは有り得ない。
あの場所に近付くものがあれば何であれ、それは近付く前に彼の目に捉えられる。
彼の目を逃れてあの場所に辿り着くことは出来ない。
例えば……突然あの場所に現れたというのでもなければ。
あの場所を見据える彼の瞳に不穏な光が宿った。
濃い紅茶色の瞳が榛色に変わり、揺らめき燃え立つ。
「へぇ……。
このボクの領域を犯すなんて。
ずいぶん面白いことしてくれるじゃない?」
呟いた彼……ヘイムダルの目が、あの場所……ビフロストに、向けられた。
ヘイムダル。
アースガルドの地を守る者。
アースガルドへと続く虹の橋……ビフロストを守る者。
転じて、この世界の一切の境界と階級、その権限を守る者。
「ボクのボクたる所以を侵してくれたヤツに、どんな報復を与えてあげようか」
ククッ、と。
愉しそうに笑うヘイムダルに、いつもの鷹揚さは消えていた。
細身の身体を飾る装飾を鳴らし黄金の縁取りのブーツが地を蹴る。
その瞬間ヘイムダルの身体は白い光と化して、ビフロストの頂点に移動していた。
「一歩でも進んだら……切り殺すよ?」
世界を照らし出すかのような白光の中から、複雑に曲がった黄金の装飾を持つ剣を突き出して、ヘイムダルは言った。
その光に目を射られたのか眩しそうに瞼を歪めたのは、黄金の鎧を纏った長身の青年だった。
絹糸のように真っ直ぐに流れる髪。
美しいけれども強い意志の宿る瞳。
それは、ヘイムダルの脅しを受けても、驚きこそすれ卑屈な色を見せない。
「へー、悪くないな。
キミの目的は?」
剣は下ろさないままでヘイムダルが問う。
答如何では直ぐにも切りかかるだろう。
それをわかっているのかいないのか、黄金の鎧の青年は答える。
「わからない。
だが、私はこの先に行かねばならない。
通してくれないか」
ヘイムダルの瞳の輝きがさらに揺らめいて、眩しい金に変わった。
「交渉決裂、だね」
ヘイムダルの身体は再び白光と化した。
大気をも切り裂く白光が黄金の鎧の青年に襲いかかる。
とっさに黄金の鎧の青年も剣を抜いて応戦した。
白光と黄金。
虹の橋の上でふたつの輝きの闘いが音も無く始まった。
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