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□GATTEN!〜いざ傾け〜
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「行ってらっしゃーい!
お土産も期待しているけどさ、たまにはゆっくりしてくるのもいいんじゃない?」と。

ビフロストの頂点でヘイムダルが笑った。

「行ってきます」と答えた龍姫に、ヴァーリの手が差し伸べられる。



「龍姫、ここからは下りだ。
気をつけるように」



「はい、ヴァーリ様」



龍姫は差し出された手に素直に自分の手を重ねる。

恥じらう気持ちは隠した。

今は注意深くヴァーリの導きに身を委ねることが必要だと龍姫は知っていたから。



ビフロストの下にはミッドガルドが広がる。

アースガルドよりも広大で、けれど、アースガルドには及ぶべくも無い整っていない若く荒々しい大地。

本来なら完全に重なって上下に分かれているはずのアースガルドとミッドガルドは今、ヘイムダルがビフロストを制御することでその姿を変えている。

ミッドガルドのほうが広大に見えるのもそのせいだった。

それ故にビフロストからミッドガルドの大地に降り立つには、ヘイムダルに許された者であることが不可欠で。

そして、一時的に歪められた事象はヘイムダルの制御が万全であっても危険には変わりなく。

今、ヴァーリは、龍姫の安全に最大限の気を配っていた。



「ヘイムダルは暢気なものだな、まあ……いつものことだが」



苦笑するヴァーリに龍姫は小さく微笑み返す。

軽口を叩きながらも、龍姫の手を支えるヴァーリは微塵の揺らぎも感じさせなかった。

出掛ける前にビフロストを渡ることの注意点や危険を懇懇と言って聞かせたのは何だったのかと思わせるほどに。

ビフロストに足を乗せる直前にまでそれをやって、「ボクのこと信用してないの!?」とヘイムダルに怒られたくらいなのに。

いざとなるとどんな事でも容易くこなしてしまう程ヴァーリは力有る神なのだ、と……こんな時、龍姫はいつも思い知らされる。

そんなヴァーリに手をとられていることに、龍姫の気持ちが揺れる。

ヴァーリを信頼し尊敬する気持ちとヴァーリを愛する気持ちの間で行ったり来たりしたそれは、やがて、ほんの少しだけ傾いた。

隣を歩くヴァーリを見上げて胸の鼓動がうるさく騒ぐのを止められない。



「どうかしたか」



「いえ、何でもありません」



ふいにヴァーリに声をかけられて龍姫は慌てて俯いた。



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