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□GATTEN!〜いざ傾け〜
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「私に見惚れるな……とは、言わないが。
せっかくミッドガルドに来たんだ、風景も見たまえ」



可笑しいのを堪えるようなヴァーリの口調。

それに抗議しようとした龍姫の視界に、間近かに迫ったミッドガルドの風景が飛び込んだ。



鈍色に光る入江の畔に館が建っていた。

中央には露台がせり出した高い塔がある。

塔を囲むようにした建物は重厚でその造りは複雑に見える。

石造りのそれは生い茂る草木に飲み込まれて、下からでは入り口さえ定かではない。

ビフロストの端もその館の手前の空で途切れていた。



どうやって降りてあそこまで行くのか、と。

館を見つめながら考えていた龍姫の視点が急に変わる。


ふわり、と。

身体が浮くのを感じた。



「ヴァーリ様!?」



龍姫の身体はヴァーリに抱き抱えられていた。



「このまま、あの塔に飛び降りる。
もう足元を気にする必要は無いから、景色を楽しむといい」



抱き抱えられて飛び降りられたら足元を気にする意味は無いだろうけれど、景色を楽しむ余裕も無いです、と。

龍姫はそう言いたくても、頬を嬲る風圧に負けて、ただヴァーリにしがみつくことしか出来なかった。

それを知ってか知らずか至近距離にあるヴァーリの薄い唇は緩やかな笑みの形に引き上げられていた。



……ミッドガルドに住まうある巨人族の様子を見に行く用件をオーディンがヴァーリに申しつけた時。

いつもなら「自分で行け」と文句を言うところを、ヴァーリは承知した。

「龍姫を連れて行って構わんぞ」と何か企んだ様子のオーディンにはしっかりと嫌みを返したが。

視察にかこつけていつもと違う場所に龍姫を連れて行くことをヴァーリが楽しみにしていたことを……ヴァーリの腕のなかにいる龍姫は知らない。



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