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□虹の都
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山の麓に隠れるようにその狭く暗い洞窟はあった。

岩の窪みかと見落とすほどにささやかなそれ。

中は曲がりくねってはいたけれど、それほどの距離は無い。

見過ごされ踏み入ろうとする者も無いそれは天然の隠れ家の入り口に相応しい。

洞窟を抜ければ、積み上げられた石の小屋を隠すように生い茂る樹木。

深い森は住む者の気配さえも覆い隠す。

隠れ住む……ドヴェルグ族の、そこは典型的な棲み処だった。



ほんの少し拓けた草地の先には落ち木を組んだ低い柵が巡らされ、そこから家の様子が少しだけ窺える。

最もそこに訪れる者などほとんど居なかったのだけれど。



「こんな誰も来ない処に隠れるように住むだなんて。
私はもうイヤだわ」



「いきなり何を言うの? 姉さん。
ほら、手が止まっている」



「もう飽きたわ」



「まあ! 生活の足しにと幼い頃から続けてきた細工を飽きただなんて、いまさらおかしなことを」



「いまさらじゃないわ! 私はもうずっとこんなこと飽き飽きしていたのよ!
やりたければカンデひとりでおやり!
そして、父様やダウに可愛がられればいい!」




喚き散らした女の手から小さな槌が投げ出された。

石壁に当たって落ちた槌が、ゴトリ、と鈍い音をたてる。



「こうして作った飾りでさえ神々の手に渡れば愛でられるのよ。
私だって神々の目に留まることさえあれば……」



ドヴェルグ族の細工師が作る飾りは美しい。

それはしばしば神々の奪い合いになり諍いをもたらすこともあるほどに。

醜いと蔑まれるドヴェルグ族の手から作り出されることが皮肉のように。

でも、夢見るように虚空に視線を彷徨わせる女は美しかった。

女を姉さんと呼んだ娘とは似ても似つかないほどに。



「姉さんはいつもそう言う」



諦めたように、妹……カンデ……は、言う。



「世界が違うわ。
神々と、私達ドヴェルグ族とでは」



「カンデ!
そう言ってダウなんかと夫婦になった貴女とも違うのよ! 私は、私はっ!」



また喚き散らし、放る槌も持たずに振り上げられた女の手を、背の低い男が止めた。



「カンラ殿。
師匠の娘であり、俺の妻カンデの姉である貴女でも、それ以上は許さん」



「貴方なんかに言われたくはないわ!」



女……カンラ……は、男……ダウ……の手を振り払った。



「私は貴方達とは違うのよ!
もっと尊い……神々の目にだって留まってみせる。
このままで終わったりはしないっ!」



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