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□虹の都
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「何を騒いどるんじゃ」



険悪な空気に割って入ったのは、小さな身体を丸めながらも視線だけはギラつくようにせわしなく巡らす典型的なドヴェルグ族の老人だった。



「師匠!?」



「カンラ、カンデ。
ここはもういい、夕食の支度にかかっておくれ」



カンラも、カンデも。

姉妹ともに言いたいことはありそうだったけれど、父親の言葉におとなしく従って、家の奥に消えた。



「師匠、すみません」



師匠である老人の娘と険悪になったことに、ダウは老人の前でうなだれた。



「いいんじゃ、ダウ。
カンラは……仕方ない」



ダウの謝罪を制した老人は話し出す。



「おまえにも以前話したが……。
カンラは儂の娘とは思えんほどに美しい。
さもありなん、あの娘の母親は巨人族だった。
宝物に目が眩んで引き換えに儂と床を共にするような女じゃったがな。
まあ、巨人族もドヴェルグ族も……神々でさえも、宝物に目が眩んだ者のやることはそう変わらんが。
ただ、あの巨人族の女は宝物さえ手には入ればいいと産まれた娘を儂に押し付けた。
それが、カンラじゃ」



老人の声はどこかやりきれない響きを含んでいた。

傾き出した暗い陽に向けられた眼には何を映しているのかわからない。



「カンラは、母親にそっくりじゃ。
姿形だけでなく欲しいものに執着する強い心ものぅ。
カンデのように、醜いと蔑まれるドヴェルグ族に特有の卑屈な考えも無い。
要らぬものさえ貯め込もうとする欲深なドヴェルグ族と違って、欲しいもの以外は切り捨てる。
潔い、強い、娘じゃ。
……儂らとは違うのじゃ。
カンラの言葉を許してやってくれ」



それでは自分の妻であるカンデはどうなのか、と。

ダウにしても、言いたいことはあった。

それでも師匠である老人に言われたことに逆らうことは出来ず、道具の手入れをすると言って師匠の前を辞した。



「……じゃが、な」



独りになった老人の声を聞く者は、居ない。



「あの、欲しいものに強く執着する心こそ、このドヴェルグ族でも名うての細工師ノトの娘である証よ。
妹のカンデにも無い、婿であり弟子のダウをも凌ぐ。
あの心が、儂の技術を継ぐ者でなかったことが残念じゃ」



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