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□夢か現か我が想い
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あの時、ヴァーリは、相も変わらずつまらない用事で呼び出したオーディンに腹を立てながら、どうやってオーディンに断りの言葉を投げつけてその場を立ち去るか考えていた。
そこにやって来たのが、フリッグ。
オーディン以上に苦手なその女神の登場に、ヴァーリは心の内では顔をしかめながらも、上手く立ち去る口実が転がり込んで来てくれたのだから、あとはタイミングを計るだけだ、と思っていた。
「オーディン。
今度の海の巨人族の結婚式なのだけれど、私の配下はみんな忙しいのよ。
あなた、誰か準備に向かってくれる神を寄越してくれないかしら」
宝石を散りばめた金の靴が、オーディンの座す玉座の段を鳴らす。
その響き渡る音は、フリッグの言葉がけしてお願いではなく強制なのを伝えているようで。
オーディンも困った顔をしている。
ここが頃合いか、と、ヴァーリは頭を下げ礼を取った。
「御相談が必要のようなので私は失礼します」
そのヴァーリの頭に降ってきた言葉。
「そうじゃ!
お主が行けばいいわい」
「はぁっ!?」
ヴァーリは下げていた頭を跳ね上げた。
「何を言い出すんだ、このクソ親父!」
「いいじゃろう!
お主もたまには変わった場所に龍姫を誘ってじゃな。
デートじゃ、デート!」
名案だとばかりに自慢気に髭を撫でるオーディン。
「何がデートだっ!」
「あら、いいんじゃない?」
ヴァーリの反論は思わぬ相手から潰された。
「龍姫もあなたと一緒なら喜ぶだろうし……まあ、龍姫はあなたが居れば何でもいいんでしょうけれどね。
とにかく頼んだわよ、ヴァーリ」
フリッグは返事も聞かずマントをひらひらと振って出て行った。
フリッグを口実に抜け出そうとしたはずのヴァーリは、そのフリッグに先に行かれ、用事まで押し付けられ、がっくりとその場に膝を着くしか出来なかった。
その屈辱が、今、ヴァーリをわなわなと震えさせる。
「あ、うん! わかるよ!
オーディン様の言い出しそうなことだ!
そうか、だから、彼女と一緒なんだね」
察したニョルズが慌てて視線を逸らした先……。
少し離れた船上にフリッグから託された品々を守るようにしていた龍姫が、突然ニョルズから視線を向けられて不思議そうに首を傾げた。
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