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□神の加護を……
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褐色の砂煙。
巻き上がる少し湿った土くれには、僅かな小石や死に絶えた動物の骸だったであろう遺物が混じる。
嫌悪感に思わず視線を逸らしたくなるそれを凝視したのは、その砂煙を起こしている原因が人の姿をしていたから。
数百は居るであろうそれは、一目見た印象ならば、さながら蛮族の兵士とでも言えるだろうか。
奇妙な雄叫びをあげて、統制の取れていない動きで、ただ闇雲に突進してくる。
褐色の砂煙をあげる、褐色の蛮人。
それでも戦のための装備を持ち現実に向かってくる以上、それは危険であり排除するべき対象でしかない。
何故なら彼女の背後には護るべき大切な存在が在ったから。
龍姫は咄嗟にその手に大鎌を出現させた。
それほど低いわけでもない龍姫の背を軽く越える巨大な大鎌は、彼女の愛用の武器。
それ故に常に携えてはいたけれど、その大きさと見た目が物騒であるという理由で、北欧の主神であるオーディンによって普段は指輪の石の中に収納されていた。
龍姫が望む時に石を撫でれば出現するそれを、龍姫自身どういう仕組みなのかは解っていなかった。
ただ、抜けない剣やら折れない槍やら理屈の解らない代物を持つオーディンになら、そんなことも出来るのだろうと思うしかなくて。
何よりその指輪の石は龍姫が求める時に間違いなくその鎌を出現させる。
それが確かなら、それでいい、構わない。
そうやって何度も繰り返した認識を今回も経て、龍姫は光の中に出現した大鎌の柄を握り込む。
近付く砂煙に向けて。
それは重さなど無いように、空気を切り裂き、砂煙を薙ぎ払った。
衝撃は砂煙を切り払い、砂煙の中の褐色の男達をも吹き飛ばす。
突出していた者も含め、龍姫の視界に直接捉えられた者達は皆腹から真っ二つに裂け、その後ろの集団は途轍もない勢いで飛んできた血みどろの仲間の死体を受け止めきれずにその衝撃に倒れた。
それは一瞬の出来事。
そこまでして初めて砂煙に対峙していた龍姫は後ろを振り向いた。
「ヴァーリ様! ご無事ですか!?」
「ああ、問題は無い。
それより君は大丈夫なのか。
無理はするなといつもあれほど言っているだろう」
躊躇いも無く龍姫が危険を排除した理由……高過ぎるとも言える長身ですらりとした体躯に白いコートを纏った北欧の神……ヴァーリが、言った。
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