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□神の加護を……
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北欧の神……ヴァーリ。



主神オーディンの息子であり、北欧の司法の護り手、裁きと断罪の神。

同じオーディンの息子であり司法の神とされ北欧のほぼすべての神から愛されるバルドルが光に照らし美しい理想で神々を導くのに対して、ヴァーリは闇に照らし過去から現在のすべての罪の記憶から神々を裁き自ら断罪する。

断罪のためにしか使われないとは言え北欧の神々の誰よりも強い力を産まれながら身に宿した彼は、オーディンに次ぐ原始の巨人の力を秘めているとも言える。



そんな本来なら護られる必要も無い彼であることを承知の上で龍姫は、全身全霊で彼を護ってきた。

何度ヴァーリからやめろと言われてもその行いがやむことは無い。

否……やめられない。

ヴァーリを愛しヴァーリを護りたいと願う龍姫には、ヴァーリに危険が近付いている瞬間に我が身が自然に動いてしまうのを止める術は無かった。

それがたとえ自分より遥かに高みの相手であったとしても、それがたとえ……神であったとしても。



龍姫のもとに、ゆっくりとその長い脚を進めていたヴァーリが並び、彼女の肩に手を置いた。

その手は体温こそ少し低いものの、思いの外、優しい。

父親であるオーディンから頭がカチコチと揶揄されるせいか、ヴァーリをよく知らない神からは氷のように冷たいだとか苛烈で傲岸不遜だとか思われ、なかでもシンモラという女神からははっきり怖いとまで言われているのに。



「責めているわけではない。
君のことが心配なだけだ。
私のことを心配して身を投げ出すような馬鹿者に、私が君を心配するのを拒否する権利があるなどとは思わないだろうな」



「ごめんなさい」



うなだれる龍姫の肩に置かれていたヴァーリの手は、肩から滑り落ちた龍姫の長い髪を一房掬いとり、その指に絡めた。



「……馬鹿者。
怒っているわけではないのはわかるだろう。
だったら、謝るな」



絡め取られた髪にヴァーリの唇が寄せられる気配に、龍姫は顔を上げられなくなる。

無機質なまでに整ったヴァーリの貌のなかで比較的感情の現れやすい薄い唇が、きっと今、緩いカーブを描いて微笑みの形を作っているだろうことに、龍姫は頬が朱く染まるのを抑えられなかった。


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