short

□all night long
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「魔神の討伐を至急で?」



静寂のなかにヴァーリ様の低い声が溶けてゆく。

北欧の神様がたの居室は大抵がにぎやかなのに、ここだけは静謐に満ちている。



「はい、ナビィの話によると、その魔神は夜間にかなり広範囲を活動しているということなんです」



「そのために私の貴重な時間を提供しろ、と?」



……ああ、しまった。

ヴァーリ様がここ数日ヴィーザル様に付き合わされて御自身の時間をなかなか取れなかったのは知っている。



『キミが忙しいから代わりに兄貴と遊んであげてんでしょー?』



うん、なんかふざけたことほざいてたヴィーザル様のいやーな笑顔が浮かんだけど、そんなものは却下。



忙しくてもきちんとヴァーリ様のもとには伺っている。

特にヴァーリ様が自由に御自分の時間をお使いになる夜には、ヴァーリ様が居心地良いよう御世話するのが私の至福なのだから。



とはいえ、今回ばかりは夜行性の魔神の討伐ということで、その貴重な夜の時間を使わなければいけないのは、心苦しいし辛い。

何やら思案されているヴァーリ様。

いつもはそれすらも幸せな無言の空間が、少し心に痛い。



「いいだろう。
ならば手を出すように」



何かを思いついたような表情のヴァーリ様の声が、気まずい静寂を断ち切った。

そして、ヴァーリ様の手が誘うように差し出される。



「え? ……は、はい」



なぜ、手を?

おそるおそる差し出した手。
指先が、ヴァーリ様の手に重なる。

その瞬間、そこに在るべきはずのヴァーリ様の手が、軽やかにひるがえった。

一瞬のことなのに、優雅なその動きは目が離せなくて。

まるでスローモーションのように残像を描いて瞳に焼きつく。



気付いた時には、お互いの指は深く絡められていた。

指と指とが交互に組まれて。

細く長いと思っていたヴァーリ様の指なのに、そうしてみれば少し節が目立つ力強い男性の指であることがわかる。

より細い女の指を容易く絡めとることの出来る男性の指。

人の心を容易く奪いとることの出来るヴァーリ様御自身のように……。




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