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□Calling You
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「どうして花嫁は俺のもとを去ってしまったんだろうな」



ヨトゥンヘイムの凍れる大地の王であるスリュム様がそう呟いた。

冷たい風に髪をなびかせながら寂しい瞳が追うのは、垣間見た美しい女神の思い出。

思い出というよりは思い出補正100パーセントだということを、私はこの寂しい王にとても言えない。

だって、あの花嫁の正体はトール様……。



「それは美しい女神だったんだ。
一面に咲くウインターコスモスの花のようだった。
あまりにキラキラして、眩過ぎて、俺としたことが花嫁の顔さえ見られなかったんだ」



えっと……見られなくて正解だったと思いますよ?



「どうしたらいいと思う?
なんとかして、もう一度、花嫁を迎えられないかな?」




お願いですから……。
ミョルニルで頭かち割られたくなかったら、そんな恐ろしいことを言い出さないでください。



「お前はどう思う?」



スリュム様の瞳が、やっと遠い記憶のなかの花嫁を映すのではなく、私を見てくれた。



「ウインターコスモスは冷たい風のなかでも美しく咲くけど、氷の中に閉じ込めてしまったら、花が揺れる可憐な姿も柔らかい花びらも……失われてしまいますよね」



愛したものを永遠にそばに置きたくて。

でも、それは本来望んだ姿ではなくて。

愛しいものたちを氷漬けにするたびに、貴方が寂しさを胸に抱え込んでるのを、知っている。

不器用な霜の王。




「あぁ、そうだな。
あの生命力に溢れた力強い美しさは、氷の中の永遠にするべきじゃないな」



何度も繰り返される問い。

貴方の手に入る氷漬けじゃない愛があるのに。

貴方の瞳は幻の女神ばかりを追い続けるから、貴方のそばにある愛に気付かない。



「俺は、お前に会えて本当に良かったと思ってるよ」



お前は俺のそばに居て俺の話を聞いてくれるから、と呟く声が風に吹かれた。




「私はいつも、スリュム様のことを想って、スリュム様の名前を呼んでいますよ」



「……え?」



「今まで、聞こえてませんでしたか?
今も、聞こえませんか?
ちゃんと……聞いてくださいね?」



貴方が愛しく切なく誰かを想うように、貴方を愛しく切なく想う者も居るのですよ。




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