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□天使よ故郷を見よ
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指先が踊る。



片腕はベッドについて身体を支えたまま。

ドレスシャツの釦を片手で器用に外してゆく指先。

まっすぐな長い指。

曲げると少しだけ骨張った節が浮かぶ。

微小かにカーブを描いた爪が釦を弾く。



それと同じ動きで私の身体にも触れる……それを思い出せと言われているような動き。



薄く青い布地は、金糸の縁取りと青の飾り釦の重みで、少しずつその肌を露わにしてゆく。

見せつけるように……焦らすように……。

悔しいくらいに、綺麗な肌には汗ひとつ浮かべていない。

まるでレプリカント。

その肌がうっすらと汗に滲むまでは、まだ時間がかかる。

白い彫像のような胸が微小かに上下して、荒い息が吐き出される頃。

やっと上気した肌にじんわりと汗が滲んでくる。

最初の一滴が零れ落ちるのは……。



つい、そんなことを考えてしまった。

その表情を見られたくなくて慌てて顔を逸らすけれど、それを見逃してもらえるわけは無い。



身体を支えていたほうの腕がゆっくりと動く気配がする。

逸らした視界から、それまで見せつけられていた身体が消えて……そして私の身体に押し付けられた。

感じるその身体の重みに私の中の何かがゾクリと震える。



胸の先に……ドレスシャツが触れる。

指先が触れる。

その感触には、必死で耐えた。



頬をくすぐる……銀糸のようになめらかな髪。

その感触にも、必死で耐えた。



でも、それ以上はもう勝てない。



耳元に触れる唇。

それが囁いた。



「何を考えている?」



微小かに上がった語尾は、質問形。

でも、わかる。

聞いてなんかいない。

だって、その声は笑っているから。

わかっていて煽ろうとする……狡い言葉。



答えない。

答えたくない。



もう負けているのはわかっているけれど。

わざと触れるようにしながら、あの指が、最後の釦を外した。



覆い被さっていた身体が離れてゆく。



立って。

歩いて。



わざわざ私の視界に入る位置に移動するなんて、楽しんでいるとしか思えない。



無造作に肩から落としたドレスシャツが滑り落ちる。



反り返った背中。



いつか爪跡を残してみたいと思っているのに出来ない。

それくらいしか、この小さな所有欲を満たせるものは無いのに。



広くて硬い肩。



夢中で縋りつくしか出来ないけれど、それはこの腕の在るべき場所。



逞しい腕。



いつも一分の隙さえ無く着こなした服の上からは、絶対に想像が出来ない。

一度捕まえられたら逃れることを許してくれない……それは、私にとっての枷。



「いつまで見ているつもりだ?
それとも、もっと見たいのか?」



振り返りもせずに笑い声で言った。

わざと見せていたくせに。



だから、これは、精一杯の強がり。



「ヴァーリ様のストリップなんて、誰も見ていません……」



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