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□浸食
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この世界は不思議だ。
神々は、ある者は封印され、ある者は魔神に堕ち。
でも、それが、如時の時点で起きたことなのかは、それぞれバラバラだ。
オレが封印される前の最後の記憶は、苦しみの果ての解放だった。
アースガルドの理を受けない遠く離れた岩屋。
おエラい神様どもが、その本性剥き出しにして、オレに憎悪をぶつけてきた。
オレは、目の前で愛しい息子達が喰い殺しあう様を見せられ、その骸でこの身を縛められた。
さらに私怨を剥き出しにした女神が毒蛇の猛毒が絶えずオレに降り注ぐようにして。
おエラい神様はそうしてオレを放置した。
けなげな妻はオレに降り注ぐ毒を杯に受けては捨てに行く行為を繰り返した。
彼女が杯に溜まった毒を捨てに行く間、オレは毒をまともに注がれ、苦痛に呻く。
その繰り返しだ……永劫の。
自業自得とはいえ、オレにだって苦痛を感じる心はある。
もう、終わりにしたかった。
もう、解放されたかった。
……そんな刻がどれだけ過ぎたんだっけな?
オレは突然黒い影に飲み込まれた。
黒い影……。
目の前に立つバカバカしいくらい長身の若い神の影に……オレは飲み込まれていた。
「な〜んだ〜、ヴァーリちゃんジャン♪
どうしちゃったワケ? こんなトコに来て」
バカバカしいくらい長身で、バカバカしいくらい生真面目な、コイツは。
オレがおエラい神様からリンチ食らってた間、必死になって神様どもを止めていた。
裁きと断罪の神である己の役目として、オレを神々の手から奪い返し正式な裁きを受けさせるべきだという、それは……わかる。
でも、まだ若い神だったあの時のヤツには、他の神々を止める力は無かった。
止めるヤツの言葉に耳も貸さない神様どもがオレを痛めつけるのを、ヤツは泣けない顔で見ていた。
その顔はオレへの同情?
それよりジブンを蔑ろにされてるコト怒るべきなんジャナイ?
そんなふうに見てたオレに……。
ヤツは唇だけで語ったんだ。
『すまない』ってさ。
「すまない」
……へっ?
ナニ、ナニ?
オレ、蛇の毒がとうとう頭に廻ったかな?
ナニ言っちゃってんの? ヴァーリちゃん。
蛇の毒が……って、ちょっと、ちょっと!
「バカじゃん? アンタ!
ナニ、蛇の毒、素手で受けてんのさ!」
妻でさえ杯で受ける猛毒を、目の前の男は素手で受けている。
その両手から溢れた毒がオレにかからないよう、自分の腕に伝わらせて。
「すまない……ロキ……」
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