short

□浸食 -lose control-
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あの日、翻して去って行った真っ白なコートを、足で踏みつけた。

飛び立つ力を奪われた蝶のように、眩い白が地に波打つ。



「なんのつもりだ? ロキ」



泣けない顔は、いつの間にか、泣かない顔になっていた。

あの日のアンタを、アンタは何処に捨ててきちゃったワケ?



「か〜わいくないナ〜。
昔は、『すまない、ロキ』って泣きそうな顔してたクセに。
……覚えてるよネ? この岩屋でさ」



腹が立つんだよ。

何もかもにさ。

アンタをそんなふうにしちまった何もかもに。



まあ、ね。

オレがいちばんの元凶かもしれないけど、サ。



アンタの泣けない顔が好きだった。

可哀想で可哀想で……壊したいくらい好きだった。

でも、今のアンタは、可哀想過ぎて見ていられない。

泣けない、んじゃない。

泣かない、んだよね、今のアンタは。



「足を退けろ、ロキ」



「退けてもいいケド〜?
どのみち魔法でアンタの身体縛りつけてるから、アンタ、指一本動かせないヨ?
キャハハハハ」



あ〜あ、相変わらずバカバカしいくらいの長身だよネ。

邪魔くさい長い脚。

乗っかってんのに、オレ、アタマから見下ろされてるカンジ?

アンタの黒い影は相変わらずオレを飲み込んだまま。

あ〜! ホント!

もう、ヤダ、ヤダ!



……もう。

終わりにしようよ。

壊してアゲル。

泣かせてアゲル。

飲み込んでアゲル。

アンタをサ、ヴァーリ。



「何をする!」



ったく! ウルサいな〜。

怒鳴りかたがオーディンそっくりジャン。

うわぁ、サイテ〜。



「黙りなヨ、ヴァーリ。
身動ぎひとつ出来ないカラダで、ナニされるのか見てればイイのサ」



ほぉら、お上品で綺麗な白いコートを脱がせば、アンタのカラダの線が浮き上がる。

アンタの体裁を守るお綺麗な服なんか要らない。

そのカラダをムダに眠らせておくくらいなら、有意義に使おうよ。



「くっ……」



「……? キャハハ!
乳首舐められてカンジちゃってんノ?
カ〜ワイイ! ヴァーリ」



「何がっ! ロキ……貴様…っ! あうっ!」



「カンジちゃった乳首を〜、思いっきり噛んだら……ククッ ! 痛いヨネ〜」



「くっ……ん、あっ……」



真っ白な胸にそこだけ色づいたそれを執拗に歯で扱くたび、ヴァーリの硬質で端正な顔が歪む。



泣かせてアゲル。


爪を立てて……白い肌に掻き傷を作った。



「くっ……うあああっ!」



胸から。

腹まで。

一筋の赤が扇情的に浮かび上がった。



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