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□imagine
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夜になるたびに私は館の庭を彷徨う。

芳しい香に包まれた花園。

その先に月の光を受けて煌めく宝玉を含んだ岩山。



君が好きだったものだ。

君が好きだと言ったから私の庭はどんどん姿を変えていった。

君の好きなものに。

君を喜ばせるものに。



なのに、何故、君は、居ない?



唯ひとつ。

君が居なくなってから私の庭に増えた場所。

私の脚は、君の居ない庭を君を求め彷徨い、そして、私の躯を君のもとへと運ぶ。

暗い森。

陽の光も月の光も差し込まない静寂の地。

ここはアースガルドであってアースガルドではない。

暗黒の森、死が支配する森。



あの日、ニヴルヘイムの女王は言った。

死したる者が生き返ることは神でさえ有り得ない、と。

だから、私は答えた。

生きて還らぬならばその骸だけでもこの手に、と。



あの日から、私の庭に永劫の墓標が築かれた。

暗黒の森、死が支配する森に、護られて。



陽の光も月の光も差し込まない。

静寂と暗黒。

刻の無い場所。

そして、そこでは私も仮そめの死者になる。

死者の瞳に光は要らない。

私は永劫の墓標を目指して真っすぐに歩む。



溶けるはずの無い氷の雫が地に落ち木霊する。

閉ざされた氷の柱。



そこに君は微笑んで眠る。

あの日のように刃を振りかざして。



何度も。何度も。

私を庇ってその身を投げ出す君を私はそのたびに叱った。

何度も。何度も。

それでも君は自分の命を投げ出して私を護ることをやめなかった。



そして、あの日も。

君は微笑んで言った。



『ヴァーリ様……が……ご無事、で……良かっ……』



『目を開けろっ! 龍姫!
私、を……。
私を、残して……逝く、な……』



あの日のまま君は微笑んで。

触れることさえ出来ないこの氷の柱のなかに眠る。



いっそ君のあとを追いたかった。

君を取り戻すことが出来ないのなら私は何もかも捨ててニヴルヘイムに下っても構わなかった。



それを止めたのも君の微笑みだった。

ニヴルヘイムの女王により引きあわされた君。

君のあとを追おうとする私に君は微笑んでその刃を振りかざした。



『ヴァーリ様にそんなことをさせるくらいなら私はここでもう一度死にます』



ともに死を生きることを君は拒絶した。

君はまたその命を投げ出して。



そして……。

ニヴルヘイムの女王の静かな怒りは、私に仮そめの死者となって君の骸を護ることを命じた。



仮そめの死者である私には君の骸に触れることは出来ない。

だが、生者のままの私が君の骸を手にしたならばいつか君は腐り果て塵と消えてゆくだろう。



閉ざされた氷の柱。

この墓標は。



この世の理をねじ曲げる罪を犯した私を君と隔てる罰。

こうして抱くことも触れることさえも出来ない君をただ見つめ続けるしか出来ない。



いつまで……?



いつまで待てば……許される?



この罪。



そして……。



この愛を。











BGM:NEW SODMY
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