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□誘惑されてクーデター
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「あら……よく来たわ。
待っていたのよ?
こうして自らこの地に来てくれるのは貴女だけなのだもの」



バビロニアの冥界の女王であるエレシュキガル様は私にとても良くして下さる。

人を寄せ付けない美貌と高貴さを纏っているけれど、本当は一途で激しい愛情を持ったかた。

なのに、私はそんなエレシュキガル様の美しいお顔を曇らせてしまった。



「まあ……。
なんて表情をしているの?
誰が貴女にそんな顔をさせるのかしら。
今すぐにでも厄災と劇毒を手にした亡者を送り込んであげてよ?」



「あ、いいえ!
違うんです、エレシュキガル様」



慌てて首を降ると、目の前には、軽やかに宝玉の飾りを翻して歩み寄ったエレシュキガル様が微笑んで下さっていた。















「……そうなの。
愛する男のために精一杯美しく装ったのに“破廉恥”だなんて。
その神は馬鹿だわ」



エレシュキガル様は美しい細い指で私の手をとって慰めて下さった。



「いえ……。
ヴァーリ様は厳格なかたですから」



ついヴァーリ様を庇ってしまった私に、エレシュキガル様は気を悪くもされず話をして下さる。



「その、ヴァーリという神……どんな男なの?」



「そう……ですね。
ギルガメッシュ様……ああ、むしろエンリル様に近い感じかしら」



「……龍姫。
それはちょっと……難物だわね」



ちょっと、と言いつつ、内心とんでもない難物だと思ったらしいエレシュキガル様は、美しい眉を思い切り寄せていた。

何か考えこんでいるエレシュキガル様。

その指先は豊かな髪をもてあそんでいたけれど、急に私に差し出された。



「では、私の衣を貴女にあげるわ。
そして貴女の気持ちをはっきりと伝えるのよ? たとえ怒鳴られてもね。
それでわからない男なら、その時こそ私が亡者を引き連れて叱りに行ってあげてよ」
















机の上に思い切り叩き付けられた鞭の音に、私は首をすくめた。



「……で!?
今日はどこの地域の女神から衣装を着せられたと言うんだ!」



今、私はエレシュキガル様から賜った衣装を纏っている。

私としては好きなデザインだし、エレシュキガル様も「ぴったりよ、よく似合うわ」と言って下さったんだけど。



エレシュキガル様、助けて下さい!

ヴァーリ様の態度は……最悪です!



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