short

□careless
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「手を出したまえ」



「はい」



突然言い出したにもかかわらず龍姫はその手を私に差し出した。

その時私が思い出していたのは、昼間、大黒天に招かれて海上神社を訪れていた時のこと。



「手を出せ」



「イヤです」



「なんだ? ずいぶんとつれないじゃないか」



「だって、大黒天様。
うっかり手を出したら、大杯持たされてお酒注がれそうですから。
というか、その杯、持たせる気満々ですよね」



大黒天は笑った。

大黒天が龍姫に無理矢理杯を持たせようとしていたのは一目瞭然だった。

龍姫が大黒天に「イヤです」と答えたのは、だから、不思議ではない。



そして、今。



私は何も持っていない。

大黒天のようにあからさまな悪戯を仕掛けようとしているわけではない。

龍姫が素直に手を出したのは、だから、不思議ではない。



それでも。

もし、私が悪戯心を起こして見え見えの罠を張って命じたとしても。

君は、それでも、私に手を差し出すのだろう、躊躇わずに。

きっと、私になら……。



「ヴァーリ様?」



そんな考えに囚われていたら、龍姫は首を傾げるようにして私の顔を覗き込んできた。



「……っ!
君は不用心だっ!」



とっさに口を突いて出たのは、そんな言葉。

心の内を覗き込まれた気がして体温が上がった。

それを誤魔化すために、驚く龍姫の手を取って接吻けた。



「男は危険なものだと覚えておきたまえ。
たとえ、私でも、だ」



君が私に従順だからといって悦に入り。

なのに、無防備な君に、私も男なのだと意識させたがる。

私は……何をやっているんだ。



「わかってます」



「何をだ」



「私にとってヴァーリ様がどんなに魅力的で危険なかたか……わかっているから此処に居るんです」



向けられる、熱っぽく潤んだ瞳。

その瞳に、龍姫にとって最高に危険な男が映っていた。





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