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□THE ONE
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ページを繰る指先が止まっている。

もうどれくらいそうしているだろう。

真剣な眼差しは文字を見つめているようで、きっとそうじゃない。

あの端正な横顔には何の色も浮かんではいないけれど。

きっと今ヴァーリ様の怜悧な頭脳は問題の糸口を手繰り寄せることに全神経を注いでいる。



そんな時のヴァーリ様は、身動ぎすることさえ忘れてしまったかのように微動だにしない。

その姿はまるでガラスで出来た彫像のように美しい。

それは美し過ぎて時々生きていないかのようで……不安になる、ヴァーリ様が手の届かないところに行ってしまったようで。

最初の頃はただ見惚れていられた。

でも、今はそんな気持ちを押し退けるように不安ばかりがつのる。



だから私も彫像になる。

動きもせず、音も立てず。

ただ息をひそめてヴァーリ様を見ている。

私には他に何も出来ないから。

ほんの少しの不注意でヴァーリ様のお邪魔になったりしないように。










やがてヴァーリ様がその長い指を開いて眼鏡の縁を覆う。

小さく、息を吐く。

どこか安堵したように。



私も動き出す。

出来るだけやわらかい香りのハーブティーを淹れて。



「どうぞ、ヴァーリ様」



「ああ、ありがとう」



ごく自然に返される言葉。



……良かった。

ありがとう、とか。

そんな素直な言葉が自然に出るのは、ヴァーリ様の心が穏やかで落ち着いている時だから。



「どうした?」



「はい?」



「ずいぶんと嬉しそうだが。
何か良いことでもあったか?」



……どうしよう、顔に出ていたなんて。



答えに迷う私の頬にヴァーリ様の手がのびた。

ふわりと香る甘い香り。

ヴァーリ様を良く知らないかたにはどうかすると冷たく高慢な印象さえ与えるその容姿に反して、ヴァーリ様はいつも甘くスパイシーな香りを纏っている。

触れるほど近くにいなければ気付かないことだけれど。



だからこそ。

その甘い香りは、今、ヴァーリ様に触れられていることを意識させずにはおかなくて。

胸が苦しくなる。

溢れ出してしまいそうになる。

ヴァーリ様……。

貴方が、好きで。

好きで、好きで、好きで。

苦しいくらいに好きで。

壊れそうになる。



「何を泣いている?」



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