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□Bois de merveilles
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「あー、やっぱり此処から見る景色はサイコー!」



ヒミンビョルグの西翼の塔。

別に東翼の塔からでも見える景色には大差無い。

ましてボクのこの眼なら。

でも、さ。



「気分、ってヤツだよね」



愛しいイザヴェルの地を今日もボクは見守る。

やわらかい緑の草原。

ああ、あそこに座っているのは……。



「龍姫?」



草原の片隅、膝を丸めて腰を下ろしてる。

その両手はキツく自分の腕を握りしめて。



「なんか……タダゴトじゃないんじゃない?」



ボクは能力を解放する。

この眼。

この耳。

普段は抑えている能力を解放すれば、ボクはその光景も音も目の前にあるかのように感じ取れる。

フツーにしてれば煩わしいし、そもそも覗き見覗き聞きみたいでイヤだから、いつもは抑えてるんだけどね。



俯きかげんの龍姫は酷い顔。

頬には幾筋もの涙の跡。



「あー、あれは1時間や2時間は泣き続けてるね」



真っ赤になった瞳を閉じるとまた溢れ落ちる涙。



「……リ、さま……」



ボクの耳でも聞こえない小さな呟き。

でも、さ。

聞こえなくたって、わかるよ。

キミが、そんなふうに自分自身を抱きしめて、ぼろぼろ涙を零して、名前を呼ぶ相手なんて。

ボクの脳裏に浮かぶのは、やたら厳格ぶってるけど本当は不器用でちょっと唐変木な男。



「好き……です。
好、き、です。
ヴァー、リ、さま……ヴァーリさ、ま……」



嗚咽と一緒に絞り出すような告白。

震える身体。

流れ続ける涙。



「こういうのを、さ。
哀哭、って言うのかな」



ねえ、こうして離れたところで聞いてるボクにも、さ。

キミの押し潰されそうな想いが伝わって……胸が痛いよ。



どうしてキミはそんなところで独りで呟いてるの?

それ、ヴァーリの目の前で言ってやればいいんじゃない?

あんなヤツだけどさ、キミのことは満更でも無いんだよ?

そりゃあ、告白なんてされれば、少しは慌てふためくかもしれないけどさ?



「そんなヴァーリを見るのも、きっと面白いしね」



ねえ、言ってやりなよ。

なんで言わないのさ。



「許して……下さい。
私なんか、が。
こんな、つまらない、私、なんかが。
貴方を……。
ゆ……る、して……」



はあっ!?



焚き付けるボクの言葉に答えるように零したキミの言葉。

キミはそんなことで引け目を感じてるの?

そのことのほうが、よっぽどつまらないことだよ?



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