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□Always On Your Side
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聞こえるはずの無い声が聞こえた。

聞くはずの無い言葉に耳を疑った。



「君は誰のために生まれてきたんだ」



イザヴェルの草原の片隅。

誰も来るはずの無い何も無い場所。

どなたの館からも遠く、おそらくヘイムダル様でさえ視線の端に見逃すはずの。

ヴァルキリー様がそう教えて下さった。



そこで、現れるはずの無いかたから、聞くはずの無い声で問われた。



「答えたまえ」



こんなふうに、答をお待たせしたなら。



本当なら、眼鏡の奥の瞳が凍る。

薄い唇が新月のように歪む。

纏う空気が冷たく青く沈む。

本当なら……。



なのに。



「答え……られないか?」



柔らかい眼差しと落ち着いた声と、優しい……何かに包み込まれた。



「あなた……のためです。
ヴァーリ様……」



有り得ない出来事と思いながら答えていた。



これが幻でもいい。

現実でなくてもいい。

ううん、むしろ。

あのかたに恋い焦がれるあまり私が狂ってしまったのだとしたら。

それでも、いい。

目の前のヴァーリ様が狂った私にだけ見える幻でも。



膝を抱え込んで座る私の隣。

持て余すように、長い脚が投げ出される。

ふわり、と。

オレンジの花が微少かに甘く香る。



あまりにリアルな幻。

幻ってこんなに現実味の有るものなのかな。



「……正しい答で良かった。
間違ったことを答えたらどうしようか、と……心配だった」



銀糸の髪が揺れて、長い指が眼鏡を外す。



「ヴァーリ様……?」



「なんだ」



「本物、の……ヴァーリ様……?」



遮る物の無くなったアイスブルーの瞳が真っ直ぐに向けられた。



「私に、偽物が有るのか?」



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