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□H2O
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その日の夜は珍しくヴァーリ様が御用がおありだということで、龍姫様はナビィと少し話をしたあと、お部屋に戻ったんです。



それからしばらくしてナビィも寝ようかと思った頃、ダスラ様から預かっていた物を龍姫様に渡すのを忘れていたことに気が付いて。

「大失敗です〜、龍姫様まだ起きてるといいですが」

そんなことを思いながら龍姫様のお部屋に行ったんでした。



「龍姫さ……」



声をかけようとして、ナビィ、手で口をふさいじゃいました。



だって、龍姫様、泣いてたんです。

どうしたのかと思って、そっとお部屋を覗いて、ナビィ、びっくりしました。

お部屋の中が砂漠に見えたんです。

広くて何もなくて暗い、寂しい砂漠。

それは一瞬で消えました。

でも、ナビィにはわかりました。

それは龍姫様の心の中の景色でした。

龍姫様の心の中の景色があまりにも強くて、それをナビィが感じてしまったんです。



だって……。



その時、泣きながら龍姫様が呟いたのは、ヴァーリ様のお名前でしたから。



一滴の潤いさえ無い寂しい砂漠で、たったひとつのものを求めるように。



その声は龍姫様の喉というよりも心の底から絞り出してるように聞こえました。

それほど……聞いているのが辛くなる声でした。



「ヴァーリ様……、ヴァーリ様……」って。



まるで助けを求めるように。

まるで龍姫様の目の前にヴァーリ様がいらしてそれでも手が届かないとでもいうように。



ナビィにはどうしたらいいのかわかりません。



龍姫様がかわいそうです。

あんなに泣いて泣いて泣き続けてるのに心の景色はあんな孤独な砂漠で、ただヴァーリ様のお名前を呼ぶしか出来ないなんて。

龍姫様の心はあんなにもヴァーリ様を求めて枯れ渇いてるのに。



それでも……。

ナビィには、どうしたらいいのかわからないんです。








BGM:森川智之
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