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□静かな夏の物語
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草原を渡る風は軽く、目に映る空は眩しい。

これが夏なのか、と思う。

季節の変化に乏しいこの地であっても。



それまで四季の移り変わりなど気にしたことは無かった。

龍姫の話を聞くまでは。

そうして実際に日本の神を訪い彼の地の四季に触れるまでは。



私はどれほど多くのことに目を瞑って生きてきたのか。

今こうして身近に在った沢山の物に気付かされてしみじみと思う。



龍姫、君が居なければ。



私は今もこの世界の眩しさに気付かないままだっただろう。

そして、微笑んで私を呼ぶ君の笑顔の眩しさにも……。

その眩しさを目で追ってしまう自分の気持ちにも……。



この地の夏は、この気持ちに相応しい。

日本の神を訪った時に感じたあの暑くむせかえるような夏では無く。

この地の、濃い緑を渡る爽やかな風に包まれた眩しい光の季節。



何もかもが輝いて見えて、こんな私の心でさえ高揚させる。

この気持ちは……。



きっと、夏なのだろう。

だから、私もこの気持ちに身を任せても構わないだろうか。



はしゃぐ君を追いかけて捕まえて。



「ヴァーリ様?」



この腕のなかに閉じ込める。



「ヴァーリ様……」



私らしくない行動に戸惑う君。

だが、許されることなら。

君もそれを望んでくれるなら。

ここから新しい物語を始めよう。

この静かな夏の光と風のなかで。



「龍姫、君を愛している」










BGM:森川智之
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