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□恋はみずいろ
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遠く、遠く。
この空がこれほどに果ての無いほど遠いものに思えるのは、私が手の届かないものに焦がれているからなのだろうか、と。
ふと、思って。
「ヴァーリ様。
人間は遠くに在るものを青という色で表すんです」
そう、言ってみた。
空や、遠くの山。
はては、生命の存在さえ許されない場所を人は紺碧の青という。
手の届かない空は眩い陽射しに溶ける。
その下には永遠の氷河。
輝く氷河の青は、ヴァーリ様の瞳の色。
空よりも遠い、ヴァーリ様の瞳。
私には手が届かない。
焦がれても、焦がれても。
望むことさえ許されない。
身の程知らずの、それは、罪。
「色は光の屈折によるものだ」
……一刀両断された。
それでも、愚かな私の望みを見透かされるよりは良かったのかもしれないけれど。
「その理由は? 答えたまえ」
「……はい、光の波長の長さの違いです」
答えを間違ってはいない。
なのに、不機嫌そうなヴァーリ様の瞳が私を見下ろして。
「君は時折、とんでもなく遠くのものを見るような目で私のことを見ているようだが」
……気付かれていた?
ああ、ヴァーリ様を欺くことなんて出来るわけはなかった。
身の程を知らない私の罪をとうにヴァーリ様は知っていらした。
覚悟した。
美しい氷河の色の瞳が、閉ざされた氷のように冷たく変わるのを。
なのに……。
ヴァーリ様の手が私の指を包んで。
そのままヴァーリ様の頬に触れさせられた。
「状況判断を間違えるな。
私は君の手が届くところにいるだろう」
途端に漣立つ、心。
でも、それすらも飲みこんでしまうようなヴァーリ様の微笑みに、私はもう何も言うことが出来なくなって。
「……龍姫?」
……あなたの傍に居てもいいのですか?
私の想いは、あなたに許してもらえるのですか?
ヴァーリ様……。
→あとがき