セブンス ヘブン

□セブンス ヘブン 6
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花火大会があった次の週から、結局知念は一週間休んでいた。悩んだ末、俺は知念から距離を取ることにした。きっといつかまた知念に無理をさせて辛い思いをさせてしまうような気がしたから。それと同時にこの不毛な恋にも決着をつけようとおもっていた。
今朝久しぶりに登校してきた知念がいつもみたいにじゃれてきたけど、てきとうにあしらった。一瞬あいつが傷ついたような表情をした気がして、胸が痛んだ。

4限の終わりを告げるチャイムの音を聞いていた。

「ねぇ、りょうすけ」

後ろの席から聞こえてきた声。

「知念、ごめん。俺実は部活に入ったの。」
「ぶかつ?」
「そう。美術部なんだけど、作品の制作があるから昼休みは一緒に過ごせない。」
「そっか。夕方は?一緒に帰れる?」
「ごめん。帰りも無理。」

知念の顔を一度も見ずに言った。そして俺は教室を後にした。本当は美術部なんかに入りたかったわけじゃない。これ以外にあいつの誘いを断る口実がみつけられなかったから。俺は足早に美術室へと向かった。



知念と昼休みも放課後も別々に過ごす日々がはじまった。まるで世界に色がなくなったみたいで。休み時間に知念が話しかけてきても眠いとかなんとか言って一方的に避けた。そのたびにあいつの顔は見れないままでいた。
部活が終わって昇降口へ行くと雨が降っていた。予定外の雨に、俺は傘を持ってきていなかった。仕方なく置き傘を借りて帰った。
夏だというのに雨が降っているからか少し肌寒い。雨に濡れた肩から体温が奪われるようで、家路を急いだ。
ようやく自宅であるアパートについた。俺の部屋は2階の角部屋だ。カンカンと音を鳴らしながら、アパートの階段を登った。
登りきった先には意外なお客さんがいた。

「……ちねん?」
「りょうすけ!おかえり。」

にっこりと笑った知念は全身ずぶ濡れだった。

「お前ずぶ濡れじゃねえか!!」
「えへへ、傘、持ってきてなかったの。」
「持ってきてなかったのじゃねえだろ。ああ、もう!とりあえず入れよ!」

知念の手を引いて家に入った。家の中は薄暗くて、電気を付けようとしていた俺の背中に何かがぴったりとくっつく感触がした。それが知念だと気付くのに数秒かかった。

「ちねん?」
「よかった。」
「え?」
「嫌われたわけじゃないみたいで。」

俺は思わず後ろを振り向いた。
知念は泣いていた。
病気を恐れる姿も、体調が悪いことも隠そうとする強い子が泣いていた。

「!?!?俺が知念のこと嫌うわけ無いだろ!?!?」
「わかってる。わかってるけど、お昼も放課後も一緒に過ごせないから、寂しかったの。」
「……」
「嫌われたのかなって思って。もしかして避けられてるのかなって。」
「………ごめんな。寂しい思いさせて。」
「ううん。あの日はぼくが悪かったから。ぼくがわがまま言ったから。愛想つかされちゃったのかと思っちゃった。」

真っ赤な目元が痛々しくて思わず撫でた。知念と目が合う。知念が何かを決めたようにきゅっと口に力を込めた。

「りょうすけ、あのね。ぼくりょうすけのことが好き。」
「えっ」
「引くかもしれないけど、同性にこんなこと言われるの、気持ち悪いかもしれないけど。ごめんね、好きになっちゃったの。受け入れてほしいとかそんなんじゃないから。ごめんね。」

知念は俺から目をそらした。俺は思わず知念のことを抱きしめていた。

「知念、俺もお前のことが好きだよ。わがままで可愛くて優しくて。そんな前のことが世界で一番大好きだよ。」
「!?うそ…」
「嘘じゃないよ。今日も家の前に知念がいて嬉しかった。実は俺知念のこと避けてたの。またお前に無理させて辛い思いさせたくなかったから。ごめんな。」
「うそ、ゆめみたい。死んじゃいそう。どうしよう。」

腕の中であたふた慌てだす知念が可愛くておかしくて、でも一等に愛おしくて。

「ねえ、りょうすけ、約束して。たとえぼくのためって言ってもぼくのそばから離れないで。ずっと一緒にいて。」
「わかった。約束する。お前のこと絶対に離さないから。」

知念を見つめると世界で一番かわいい笑顔をくれた。俺は思わず知念に口付けた。

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