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□人形遊び2
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私が山田様と彼の大切な人だという性別不詳の麗人(ゆうり様という名前らしい)の住む家の掃除婦になってから早一ヶ月が経とうとしていた。
山田様は、かなり朝早くに起きる。そして、きっかり9時半になってからゆうり様の部屋に行かれる。ある朝、私はその部屋で何が起こっているのかがどうしても気になってしまい、覗いてしまったことがある。
朝日が柔らかく差し込む部屋で、美しい金髪を透けさせた山田様は天使のようだった。ゆうり様のベットに腰掛け頬を優しく撫でる。

「ゆうり、おはよう。」

ゆうり様は植物状態で、返事をするはずがない。
それでも山田様は声をかけ続ける。その内容は昨日食べたものだとか、今日何をするかだとか本当に他愛もないもので。山田様の視線は優しさにあふれていて。
そして最後にゆうり様にやさしくキスをした。私はその光景の美しさに見惚れて、持っていたモップを思わず倒してしまった。モップは派手な音を立てて床に転がった。
山田様が振り向き、こちらに近づいてきた。

「桜木さん?」

「は、はい!あの、申し訳ございませんでした。覗くつもりとかじゃなかったんです。」

「いや、気にしないでください。おかしいですよね。植物状態の人間に毎朝おはようなんて言って話しかけるなんて。」

「い、いえ、そんなことはないと思います。」

私はなんと返していいかわからず、つい否定してしまう。

「人形遊びみたいでしょう?」

「え?」

「こいつ、自分がもし植物状態になったら病気の人に臓器提供するって言ってたんです。その時は世間話程度で、こんなことになるとは思ってなかったんですけどね。」

山田様は寂しさに溢れた笑い方をした。

「俺は嫌だって言ったんです。だけど、ゆうりは“目が覚めないなら僕はまるでただの人形じゃないか”って、言ったんですよ。だから俺がこうしてこいつを無理やり機械に繋いで、毎朝おはようって言うのはエゴまみれの人形遊びと一緒なんですよ。」

人形遊び、私は心の中でその言葉を反芻した。やけに可愛らしい響きのそれは、思ったよりも心の中で重く響いた。

「ゆうりのベットを日当たりの良い部屋に置いたのも、人間は朝日を浴びると良い目覚めを迎えることができるって聞いたからなんですよ。これもおはようも全部俺一人の人形遊び。」

彼の瞳が涙で満たされた。

その朝以来、私はゆうり様の部屋を9時半から覗くことはやめた。だけど、ゆうり様の部屋に掃除に行くとき、私はこっそり話しかけるのだ。

「おはようございます、ゆうり様。」

せめて山田様の人形遊びが一人でのものにならないように、美しい彼の瞳に悲しい涙が満ちることがもう二度とないように。

※桜木さんと山田ちゃんの関係はあくまでビジネスです。



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