Another
□人形遊び3
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※山田さん視点です
うちに新しい掃除婦が来てから一ヶ月が経った。俺は相変わらず毎朝ゆうりにおはようの挨拶をしに、ゆうりの部屋に向かう。
「ゆうり、おはよう。」
ベットに腰掛けながらゆうりに囁く。
朝日の差し込む部屋で目を瞑るゆうりは、少しも植物状態には見えず、ただ眠っているように見える。
「桜木さんが来て一ヶ月が経ったね。桜木さんは俺がゆうりに話しかけてるのを見ても気味悪がらず仕事を続けてくれる。」
俺はゆうりの頬を優しく撫でる。
「いい人だよな」
ゆうりの顔にぐっと自分の顔を近づけてみる。ぴくりともしない。
「ゆうり、妬いてよ。俺が彼女のこと褒めたの、妬いてよ。」
知っていた。ゆうりはあまり焼き餅を焼かない。まして、眠り続けている今、妬いてくれるわけがない。
俺はゆうりが植物状態だと診断がついたときのことを思い出した。ゆうりは自分の体の臓器提供を望んではいたが、ドナーカードは持っていなかった。家族がすでにみんな他界していたゆうりの今後は俺が決めることになった。
俺は当たり前にゆうりの臓器提供を拒否した。まだ生きてるゆうりの体を切り刻んて、中身を誰かにあげるなんてとうていできなかった。それはまるで美しく咲いた花を、摘んで足でグシャグシャに踏む潰すような行為に思えた。
「ごめんな、ゆうり」
これも、また知っていた。ゆうりは俺を責めることはない。常に穏やかでふわふわ笑ってるコだった。
「ゆうり、責めろよ、俺のこと。目を覚まして、俺のこと、好きなだけ責めろよ。」
ぼたぼたと涙がこぼれた。
頼むから目を覚まして欲しかった。
今日もまた、ゆうりが目覚めない一日が始まる。
そして、いくら薬を飲んでも眠れない夜が訪れる。
眠れない俺は、夢の中ですらゆうりに会えず、ゆうりをただ飼い枯らしていく罪に溺れる。