長編

□02
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・・・

「…これは、規模が…」

馬に揺られて暫く、王騎将軍の邸に到着した。
流石は秦国の大将軍。驚きで腰を抜かしそうなほど、巨大な建物だった。

子どものように目をキラキラと輝かせている間に、先に馬から降りていた騰副官は私に手を差し出し、馬から降りるよう促した。

「殿がお待ちだ。」

「あっ、すみません…」

成人をとうに過ぎた大人が、子どものように興奮して、恥ずかしい…

少し反省しつつ馬から降ろしてもらう。
周りは特に何も思っていない様子だ。




「わ…凄く迫力がある石像…」

「あれは殿が作ったものだ。」

「え…?」

邸の中に向かう道中、大きな龍の石像が見え圧倒されていると、騰副官が教えてくれた。

「その近くにある像は私が作った。」

近く…
見れば謎の生物の像があった。


………何の、生き物だろうか。
上手いけれど、あれはいったい…


「凄く、良い作品ですね。」


…少し笑顔が引き攣ったかもしれない。

無駄に緊張感がある、そんなやり取りをしている時だった。

「あ?騰、戻ったのか。例の陵安の娘ってのはどうだったんだよ。」

「ああ、殿の命で連れてきた。自分の目で確かめろ。」

「はあ?」

前方から誰かが話しかけてきたようだ。
しかし、目の前には騰副官が立っているので見えない。

そっと背後から顔を出し、確認してみることにした。


バチリ

男性と、目があった。

「っ!」
「うぉっ?!」

私と男性は共にワンテンポ遅れて驚く。

「…お、お初にお目にかかります。」

「お、おう…」

男性は私から顔を逸して返事をした。

「…陵安の娘、名無しさんだ。名無しさん、この者は録嗚未。ああ、名前は覚えずとも問題はない。」

「オイ!騰っ、ふざけんな!!」

「ふざけてなどいない。…コココ。」

「殿の真似すんな!似てねぇよ!…あと茶化すな!」

まるで漫才だ。
元祖ツッコミなのでは?

二人の日常なのだろうその光景に、思わず笑ってしまう。

「ふっ…ふふっ…す、すみません、っ…」

苦しい。笑いが収まらない。

「…」

「録嗚未、何を惚けている。」

「なっ、別に惚けて…」

「顔が赤いぞ。惚れたか。」

「けほっ!ゴホッ、ゴホッ…!」
「バッ、何言ってんだ!」

笑いが、突然の言葉にむせて消えてしまった。

私の顔も彼の顔も紅く染まる。私は茶化され慣れていない事もあって紅くなった。彼の場合は、茶化されたことへの怒りでだろう。

「あのあのっ、心臓に悪いですから!……録嗚未様でしたよね…えっと、改めまして、陵安の娘、名無しさんです。暫くの間お世話になりますっ!」

勢いに任せて言った上に、勝手に手まで握ってしまった。

「あ"っ、ああ。…王騎軍軍長、録嗚未だ。」

そう言った録嗚未軍長はさらに顔が真っ赤になり、小刻みに震える。そして、そのまま動きを止めてしまった。

「あ、手っ…すみません。」

パッとすぐに手を離し、謝罪した。

「どどどどっ、どうしたら…!え、あの、騰様!」

ガバッと振り返り、騰副官に助けを乞うが、

「放っておいて構わん。そろそろ行くぞ。」

「あ、え?と、騰様!」

"放っておけ"と先に進んでしまった。

「録嗚未様っ、すみませんでした!あの、失礼しますっ。」

お辞儀をしたあと、急いで騰副官を追いかけた。

しかし、あまり進んでいなかったようですぐに追いつく。どうやら歩く速さを落としてくれていたようだ。

騰副官は、"不思議な紳士"という印象。
変わっているものの、良い人ではある。
・・・

邸の中に入ると騰副官と別れ、使用人に自分が暫く使う部屋を教えてもらった。

荷物の確認を終えると、その後すぐに別の部屋の前に案内される。

「こちらへ。」


使用人は私を扉の前まで案内すると、中へ声をかけた。

「名無しさんをお連れいたしました。」

そして扉をあけ、

「どうぞ中へ。」

と中へと促した。

「失礼します…」

「ンフフ、突然この様な事をして申し訳ありませんねェ。」

中には王騎将軍だけがいた。


「それでは話をしましょうか。」



自分の邸で見た眼に再び対峙すると、前よりも緊張感が高まるのを感じた。
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