長編

□04
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−−−決戦の日が訪れた。




夜が明ける前、策通りの地点に静かに布陣した王騎軍は、盗賊達が動き始めるまでの間に何度か偵察部隊を送り、随時相手の行動を監視した。

盗賊集団の数は意外にも多く、盗みや暴力に味を占めた輩が最近ここに流れてくるようになったそうだ。

盗賊は空に明かりが差し込み始めた頃動き、それに合わせて騰副官が指揮官を務める中央部隊も行動を始めた。

「…中央部隊は戦闘を始めたみたいですね。」

「そうですねェ。」


私は王騎将軍と、録嗚未軍長率いる左軍伏兵から僅かばかり離れた場所で待機している。

中央部隊の姿は見えない。しかし、微かに聞こえる刃と刃がぶつかり合う音や、馬の力強い足音、盗賊の歓喜に染まった声に、順調に進んでいるのが伺えた。


「…」



しかし、自分が兵となって戦うわけでもないのに、どうしても鼓動が早まるのを抑えられない。

緊張か恐怖か。きっとどちらでもあるのだろうそれを、隅へ隅へと追いやり意識を戦いの方へと向けた。


音は、着実にこちらへ近づいてきている。


…右軍、左軍が構え始めた。


…そろそろだ。きっと、あと数秒も経たぬ内にこの地点に来るだろう。

「…来た…!」

ドッ…!!!


重く響き渡る音と、多くの人間の姿。中央部隊と盗賊集団が目標地点に入ったのだ。

その勢いは、今まで生きてきた中でとても目にしたことのない、恐ろしいものだった。

そして、

「行くぞっ!!」

その光景が見えたすぐ後に、録嗚未軍長の出陣の号令が響き、彼が率いる左軍、向かい合った位置に待機していた隆国軍長率いる右軍が一斉に飛び出し、戦いの渦に潜り込んだ。



「ぐっ、伏兵だとぉ!!?」

盗賊集団の歓声が一転、悲鳴へと変わった。


既に中央部隊も反撃体制へと変わっており、完全に囲まれた盗賊達は、戦う者と、逃走を図ろうとする者とにわかれ、彼らの敗北を決定づけていた。


しかし、さすがは盗賊。動きはバラバラだがなりふり構わぬ逃走によって、包囲を脱した者が現れ始める。



「……」

離れているとはいえ身の危険を感じ、私自身ができる防衛行動に移った。


ビリビリッ…

「ンフフ、随分と大胆なことを…いったい何をなさるつもりですか?」

「自己防衛です…!」

私は、自分が着ている着物の右袖を千切た。
そしてさらに、

ビリビリッ

千切った袖を縦に割いて広げる。袖から、一枚のただの布へと姿を変えたそれを使い、簡易的な武器を作るつもりだ。



「…よしっ、できた。」


完成した武器を持ち、辺りを警戒する。


すると、ガサガサと草を掻き分ける音が聞こえ、私はそこへ意識を集中させる事にした。


周りの兵士達も警戒し始める中、私は思い切り後ろを振り返る。


ガサッ

「っはぁ、こ、ここまで来りゃあ…」

振り返った先にある草むらから盗賊の一人が現れた。

頭の中で警告音が鳴る。



「え、えーいっ!!」


その男を見て、私は変な掛け声と共に手に持った簡易武器を振りかぶり、その男の頭部へフルスイングした。

ガツンッ…!!!

鈍く響く音と感触に顔が青ざめる。

そして、男が呻きながら倒れるのを見て思った。




…咄嗟の自己防衛とはいえ、私はもしかするとサスペンスドラマの様な展開を……




……しかしそれは杞憂に終わった。男は白目をむき泡を吹いて倒れているだけだったようだ。



ただ、私の行動に驚いたのか、コココココと一人笑う王騎将軍を除いた周りの兵士達は口を開け、皆一様に驚いた様子でフリーズしていた。


「ンフフ、中々に面白い自己防衛でしたよ。」


「…あ、ははは……ありがとう、ございます…」


胸中複雑である。

・・

兵士達が元に戻ったとき、包囲網を作った三部隊は戦いが終結したのだろう、歓声が聞こえた。



「ああ、そういえば名無しさん。…あなたが倒したその男、盗賊頭の右腕と呼ばれている人物だそうですよ。コココココ。」



「…え?…………あは…はは…」



偶然が起こしたこの出来事に、果たして喜ぶべきか否か。




……本当に、複雑だ。
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