短編

□未来に祝福を(劉冬)
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「…やっぱり賑やかですね。」

「そうだな。城主や周りの者の働きあってだろう。」

「…周りのって言いますけど、もちろん劉冬様も入ってますよね?」

「……ああ。」

私は趙国の離眼城という場所に居る。
元は平成の世に生きていた人間。
わけもわからず時代を遡った私は、有名な商人の養子として生きることになった。
少し前からこの地に住む養父は離眼城主と親交があり、養子となってから少しして、挨拶にと、現城主の紀彗、側近の劉冬・馬呈と会って話をした。

その後何度か交流を重ね親しくなり、今では離眼城で勉強させてもらっている。

「もう城には慣れたのか?」

相手はどうなのかわからないけれど、一番仲がいい劉冬には特にお世話になっていて、感謝しきれない。

「えっと、お陰様でなんとか。…ご迷惑をおかけしました。」

「そうか。城主も心配していた。」

「はは……すみません。」

そのまま話をしながら城下へ向かっていると、賑やかな小さい人の波が押し寄せてきた。

「劉冬様ーー!!名無しさん様ーー!!」

離眼の子ども達が笑顔でこちらへ走ってきたのだ。

「劉冬様っ、稽古をつけに来てくれたんですか??」

「いや、今日は名無しさんと街を見に来ただけだ。」

「えー……」

彼の一言で少年達は残念がった。
きっと城主の為に強くなりたいのだ。
離眼は愛に溢れている。子ども達の愛する離眼を守りたいと思う気持ちが伝わってくる。

だからこそ、少年達には悪いことをしてしまった…

「ごめんなさい、私が街へ行きたいって言ったから劉冬様と稽古できなくなっちゃったみたいで…」

少し屈んで謝罪をすると、少年達と一緒にいる女の子集団が一斉に抱きついてきた。

「わっ、ビックリした…」

「名無しさん様気にしないで!…もうっ、あなたたち名無しさん様にあやまって!」

「…ははっ、ありがとう。大丈夫だよ。」

子は宝だとよく言うけれど、その通りだと思う。純粋なこの子達はきっとまっすぐ育つ。

女の子達の頭を撫でていくと、劉冬は呆れた様子だった。

「…良くはないだろう。」

呆れる彼を、苦笑しつつ見ていると、袖にくいっと引かれる感覚が。
見れば、少年達が眉をハの字にしてこちらを見つめていた。

「…名無しさん様、ごめんなさい。」

一人が謝ると、その子に続いて次々と謝罪が聞こえてくる。

「いいよいいよ。…たくさん稽古をして、逞しく育ってね。」

そう言うと、男の子達も勢いよく抱きついてきた。

「うっ…く、苦しい…」

子ども達が皆抱きついているので苦しい。
可愛いが、苦しい。


暫くして、劉冬の助けで解放された。


「ははは…ありがとうございます。助かりました。」

少しよろめきながらも彼にお礼を言うと、そっと背を支えてくれた。

…かっこいい。

「すみません…」

「気をつけろ。」

そんな光景を見たからだろうか、一人の女の子がとんでもない事を言った。

「劉冬様、名無しさん様は妻になったのですか?」

つま、ツマ、妻…

「なっ、え、な!ち、違うよ!」

顔を真っ赤にして否定する。


しかし、畳み掛ける様に今度は別の女の子が爆弾発言をした。

「劉冬様、名無しさん様とお話しするときはすごく嬉しそうだよ?」

動きが完全に停止する。


…無邪気とは恐ろしい。


暫くフリーズしている間に子ども達は親に呼ばれたのかどこかに行き、その場には気まずい大人二人が残るだけだった。


「…子らが言っていたことだが、」

「は、はい、子どもは時に恐ろしいですね!」

「そうではない。」

焦って意味のわからない発言をしてしまった。

彼は何か別のことを言いたいのだろうか、真剣な顔でこちらを見ている。

そっと自分も見つめ返すと、心臓が騒がしくなった。

「な、んでしょうか。」

雰囲気で、何か察してしまう。

「俺は、お前との時間を大切にしている。」


「…私も、劉冬様といる時は、安心するというか…楽しいというか…」

顔は赤いし、視線も定まらない。


けれども、その間に私の視界に影がかかかる。
…彼が近づいた事がわかった。

「離眼の悲劇といわれたあの日から、命に代えても離眼の全てを守ると誓った。…俺は離眼の未来を、命ある限り見届ける。…名無しさん、お前には俺の傍らで共にそれを見届けてほしい。…俺の妻になってくれ。」

彼はそう言って私の手を取り、自らの口元に手を寄せた。

「……………は、はい…」


今まで冷静沈着なイメージだった彼の、情熱的な瞳を見てしまったら、逃げられない。


今この瞬間から、私は彼と未来を見届けたくなったのだ。



…どうか、彼と見る離眼の未来に光を。
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