長編

□02
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「話、ですか。何をお話すれば…」

席についた私は、思わず聞き返した。

「もちろん、あなたの話ですよ。陵安の養子ですからねェ、出会いから、民の言う活躍まで、お願いしましょうか。」

「は、はい。その、活躍と呼べるものでもありませんし、説明も上手くはないですが…」

そして私は話し始めた。

・・・
それから時が経ち、青い空が茜色に染まる。
それから程なくして養父との出会いから、街の人達の問題を拙い知識で解決してきたという事を話し終えた。

「…大それた事はしていません。」

決して大業を成した訳ではない。

「あなたは何もわかっていませんねェ。」

「え…」

「行ってきた事は、あなたが評価するものではありませんよォ。少なくとも、民に頼りにされているあなたはそれだけの事をした、という事でしょう。」


「そう、ですか………ありがとうございます。」

そうだったのか…。

そう言われて初めて、町の人達の評価を受け止められ、嬉しさと気恥ずかしさがこみ上げてきた。


しかし、その感情も次の一言によって一瞬で消え去る。血の気をサッと引かせて。

「それにしても、あなたは様々な物事に精通いるようですねェ…。まるで、全てを知っているように。」

「…それは……」


まずい…

王騎将軍は初めから直感的に何かを感じ取って、私に話をさせたのだ。

…真実を得るために。



「あなたは記憶は失っていない。…決して誰にも言えぬ特別な理由があって隠している、といったところでしょう。」

王騎将軍の目が"全て知っている"と言わんばかりにこちらの目を射抜く。

恐怖で震える。
…しかし、相手が気づいてしまった以上、仕方がない。けれど、私自身の身にリスクが伴う本当の話は、タダで教える訳にはいかない。
私が、少しでも人々の助けになっていると理解したからには、やらなければならない事がある。
何様だとか、嫌だとか、そう言われて切られてしまうかもしれない。

…でも、これだけは、どうにかしたい。

「…無礼を承知でお聞きします。もし、私の望みを叶えて下さるのなら事実をお伝えする、と言ったらどうしますか?」


増幅していく恐怖心を無視して返答を待つ。

「ンフフ、交渉ですか。望みの内容次第です。本来ならば、陵安の娘といえど斬捨ててしまう所ですが…名無しさん、あなたの秘密について興味があります。まずは望みを聞かせてもらいましょう。」

どうやら話を聞いてくれるらしい。

「近頃、町では盗賊が相次いで店や女性、子どもといった存在を襲い、暴れています。
…私は、町も町の人達も守りたいんです。なので、どうか手助けを。…策は、考えました。それを実行し、成功させる為の兵力が欲しいんです。」

…ただし、欲を言うならば指揮官も欲しい。私では確実に誰も従ってくれない。

「…盗賊の件でしたか。コココ、陵安に止められていたというのに、よくやりますねェ。」

「あの時の会話を聞いていたんですか……。そ、それは一先ず置いておきます。」

誤魔化すように話を流した。

「コココ、いいでしょう。あなたの話も気になりますが、今はそれ以上に陵安の困った姿を見てみたくなりました。ンフフ…」

「え……?」

驚きの発言が聞こえたものの、まあどうであれ、一安心だ。

「あ、はは…感謝します。」


「では、協力するにあたってあなたの策がどれほどのものか、聞かせていただきましょう。」

王騎将軍の目が、纏う空気が、私を見定めているように思えた。


…そう、ここからが最も重要だ。私が使う策は、あくまで私が考えたのではなく、日本の戦国時代で使われたもの。

…単純なようで、難しい策。
それに、失敗も大いに有り得る。だからこそ、その場合に備えた策もまた話さなければならない。


「…この策は、単純です。ですが失敗も有り得る、人によっては難しいもの。私が求めているのは、戦の経験・軍の中での信頼・冷静な指揮官・武力、これらです。今から、説明させて頂きます。」



条件が揃った王騎軍だからこそ、私は頼んだのだ。


…そっと深呼吸する。


「…では。」
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