トイレの向こうでファンタジー
□消えた便器
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正確にはほんのちょっとちびっただけだったが、俺は慌てて尻を出してその場にしゃがみ込んだ。
幸いにもここは比較的背の高い草が生い茂った草原で、辺りを見回したが誰もいない。
ふむ。
これなら音姫もいらないな。
ならばこの際、心置きなく全部出してしまおう。
「……おふう」
なんとか本来の目的を遂行した俺だったが、俺、野○そなんて生まれて初めてしちゃったよ。
お、○よ。
仕事してくれてありがとう!!
危うく特殊性癖を持つ、マニアックな人向けの物語になるとこだったぜ。
いろいろと下品でごめん。
後で注意書きとして書き添えとくから。
そんなこんなで出すものも出し、ひとまずは落ち着いた俺だったが、脱いだパンツで尻を拭いて、パンツは出したものと一緒に地中深くに埋めてしまった。
そんなこんなで今はノーパンなわけだが、ノーパンでズボンを穿くのも野ぐそ同様初めての経験だ。
それより何よりここはどこだ?
まずは落ち着いて現状を把握せねばなるまい。
「うーん」
どうやら俺が立っているのはどこかの草原のようで、周りには人は愚か民家や建物も見当たらなかった。
それどころか視線の先には地平線が見え、どうやら俺はとてつもなく広い草原のど真ん中にに立っているようだ。
正確にはど真ん中かどうかはわからないけど、少なくとも周りには生い茂った草しか見当たらない。
このまま直進しようかどうかと悩んで振り返ったその時、背後に米粒ほどの何かが見えた。
八方塞がりの中、とにかく行動を起こすしかない。
とにかく米粒に向かって歩き出すこと数十分、どうやらその米粒は森らしいことがわかった。
「森かあ……。一か八かだな」
周りに民家が見当たらない現状では、あの森に賭けてみるしかなかった。
ファンタジーや童話の世界だと木こりや猟師、魔女が森に住んでいたりするから、とにかくあそこに行けば何か進展があるかも知れない。
俺は進路を変え、後ろに向かって歩き始めた。
歩き始めたはいいが目の前にあるはずの森は思いの外遠く、なかなかそこまで辿り着けない。
そもそも頻繁にトイレにお世話になっている今の俺には、歩くだけでも重労働なのだ。
それに加えて昼休み直前だったから腹が空いていたりする。
腹は痛いが、腹減った。
そんな最悪な状態じゃ力も出ない。
ポケットの中にはチロルが何個かあるはずだけど、今の腹の状態で食べても大丈夫だろうか。
「あ」
それにしても、腰の高さまで生い茂った草原に頻繁に尻丸出しでしゃがみ込む間抜けな俺ってば。
おそらく俺は、異世界にトリップしてしまったんだろう。
実はラノベ好きなオタクだったりする俺は、パニクったさっきとは一変して尻を丸出しにしたまま、冷静にそんなことを呑気に考えていたりする。
尻を拭くものは生い茂った草しかないし、こんなことなら普段から小学校の時のようにハンカチとティッシュを持ち歩いとくんだった。
この草、何気に先が尖った固めの草だから、強く擦るとひりひり痛いんだよな。
日本のティッシュの品質のよさを痛感したよ。
やっぱ、メイド・イン・ジャパンは最高!!
つか、それにしても、トリップするきっかけがトイレってどうよ?!
しかも腹下した時とか、洒落にもなんないからね!?
幸いにも俺の心の叫びが、辺りにこだまするようなことはなかった。