君に幸あらんことを。




階段から足を踏み外した
母を受け止めた時、
響いた声と温もり。

懐かしい日々の記憶が蘇る
臨終の間際、祖父が遺した言葉。
俺への感謝と、謝罪
もし、お前が望むなら―
そう言って、祖父は
痩せ細った腕を伸ばして
俺の頬に触れた。


望むなら…?


あれから、もう二年が経つ時の流れの早さには、正直驚かされる

其れがもう決して会えない人達なら…尚更に。
けれど、以前と少しも変わることなく穏やかに過ぎていく日々。

母は以前より、ずっと柔らかな表情を見せるようになった。

何もないと思いながら
過ごしてきた日々にふと
感じる愛しさ…

もう二度と戻らない日々への憧憬と共に
あいつの生きた時代が、
今この瞬間に繋がっている
そう思えば、何気ない日常も、何だか大切なものに
思えてしまうのだから
不思議だ。

皆と過ごした日々の中で、俺も…少しずつ変わっていたのかもしれない。

確かに其処に在った日々、そして、存在。
どこまでも澄み渡る空を
見上げて、想う。


あの眩いばかりの日々を



傷だらけの騎士は、あいつが精一杯生き抜いた、証。


俺は今日を、生きている。



[了]
………………………………
自分にとって掛け替えのない人に何か遺せるって、
大切なことだと思います。相手の枷になる場合もあるけれど、時を越えて絆を
育んだ二人を再び結ぶ
素晴らしい贈り物だと。
想いの証だから。
其れを咄嗟に渡せた光也は凄いです…。

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