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□A thousand years
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フォークスには珍しく、眩しく照りつける太陽が出たある日。
私達ヴァンパイア家族は、もちろん外出など出来るはずもなく、本を読んだり、ピアノを弾いたり、それぞれ思い思いに今日という快晴の日を過ごしていた。
私は部屋で本を読むジャスパーの側で、大きく重厚な木製のスピーカーの前で静かに流れる音楽を聴いていた。
普段はクラシックやジャズ、スウィング系を好んで聴いているが、今日のそれは最近流行りのもの。
しっとりとしたピアノの響きとうっとりするような詩に惹かれて、この前アリスと出かけてた時に購入したもの。
「I'll love you for a thousand more.(これからの千年も、あなたを愛し続けるわ)」
曲を聴き終えると、インストルメンタルを控えめに流して、歌詞の一部を彼に向けて言った。
「千年だけなの?」
ソファに座っていた彼は、読みかけの本から顔を上げた。
「ずっとって意味よ」
「知ってるよ」
「なら、からかわないで」
彼は時々いじわるだ。
普段の彼は紳士的で優しくて、とっても素敵。
けれど、私に対しては時々いじわるで、からかってきたりもする。
彼曰く、好きな子には少し意地悪をしたくなるものでしょ?と悪戯な笑みを浮かべて。
そんな風に言われてしまえば、それすら私を虜にしてしまうのだから、彼はずるい。
「千年なんてすぐだよ」
「私、この歌好きなのに」
「僕等には短い時間の話だね」
「人間にとっての千年は永遠と同じよ」
千年という時は人間には長すぎる時間で、死んでいなくなったその先も長く長く続くもの。そんな、長すぎる時間をたった一人の愛する人に捧げるという人間の浪漫が詰まった歌詞を分かってもらえないのかと思った。
私は彼に背を向けてCDに付いていた歌詞のブックレットを見る。
「ほらミシェリア、すねないで」
ちらりと彼を見ると、彼は読みかけの本に栞を挟んでソファの横のチェストの上にそれを置いて優しい顔で片手を私へ差し出した。
こっちにおいでとそう言っているかのよう。
「すねてないもの。ただロマンチックな歌だって分かって欲しいだけよ」
ブックレットをCDケースに戻して、木製スピーカーの上にそれを預けると私は彼の方へ向き直った。
「分かっているよ」
「One step closer(一歩近づいて)」
そっと歌詞のワンフレーズを口ずさんで、歌詞に習って彼に一歩だけ歩み寄る。
「結婚式みたいだね」
ふっと彼が笑ってそう言う。
なんだ、ちゃんと聴いていたんじゃない。
私は少し嬉しくなって、それらしく一歩、また一歩、まるでバージンロードでも歩くかのように彼に近づく。
そうすると彼も私に習って、立ち上がるとそれらしくすっと背筋を伸ばした。
「結婚式で流すのに素敵な歌だと思うの」
「それなら、僕らもロザリーとエメットみたいに結婚式を挙げようか」
「遠慮するわ」
私に片手を差し出して待つ彼の手にそっと手を重ねた。
そうして彼の手のひらをするりと撫でる。
「どうして?」
彼が悲しそうな表情を浮かべるものだから、ふふっと笑って
「見世物になるのは恥ずかしいもの」
と彼から視線を外した。
「僕は見たいよ、君の真っ白なドレス姿」
そう言うと彼は私の手を引いて、私と同じ体温の腕の中に私を閉じ込めた。
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