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□彼なりの優しさ
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いつも通り賑やかに夕飯を食べて、今は片付け中。
久々にじゃんけんで負けた私は食器洗い。
他の三人は思い思いに寛いでいたのだが、次元だけが手伝いに来たのだ。
なんで来たのかと問うと
「早く片付けちまえば、その分早く次の山の話ができるだろうが」だそうだ。
素直にお礼を言ったら少し驚かれたけれど、本当に助かったと思って言ったのだからいいじゃないか。
男三人と私が使った食器は少々多いのだ。
いつものじゃんけんは次元が負けることが多く、
「かーっ!ったく!また俺かよ」なんて言いながら、腕まくりして手際よく片付けていくのだ。
ぶっきら棒で、無愛想。口は悪いが律儀で義理堅い男。
なんだかんだ言っても次元は優しい。
私はそんな彼が好きだ。
私が食器を洗い、水切りかごへ置くと次元がそれを拭く。
キッチンには水の音とカチャカチャ言う食器の音と布巾と食器が擦れる音だけ。
ドアの向こう、アジトの奥のリビングからは微かなテレビの音と笑い声を上げるルパン。五右ェ門はきっと静かに瞑想でもしているのだろう。
好きな男が隣にいて、程よい生活音。
少し緊張もするが、心地の良い空間。
普段はあーだこーだ口喧嘩をしてる私達も今日は珍しく静かだった。
いつもなら言えないようなことも今ならちょっとだけ言えそう。
「次元って、なんだかんだ言っても優しいよね」
「…いきなり何だ?」
「今だってこうして手伝ってくれてるし、ルパンや五右ェ門も優しいけど、それとはまた少し違う」
「ほー。珍しいこと言うじゃねぇか」
次元は私をちらりと見たが、私は洗い物から目を離さずに続けた。
「ルパンはお父さんか親戚のおじちゃんって感じで、五右ェ門はお兄ちゃんって感じ」
「…で、俺はなんなんだ?」
「うーん…次元は隣ん家の同級生か先輩って感じかな?年は離れてるしおっさんだけど、そんな感じ」
「あ?なんだそりゃ。おっさんは余計だ」
今なら素直に言えそうだ。
なんとなくそんなことを考えていたらポロリと、ひた隠してきた想いが零れた。
「私、次元のこと好きだよ」
「…んなっ!あ゙ぁ゙?お前正気か?」
言っちゃった。
でも、本当だ。
「うん、充分正気だよ。仲間としても、人しても、男としても次元のこと好きだよ」
「けっ。ガキんちょが、生意気なんだよ」
そういうと次元は黒いボルサリーノを被り直して、次のお皿を拭いた。
次元の顔をちらりと覗き見ると、トレードマークのボルサリーノの下から見える頬は赤くなっていた。
「うん。ガキんちょの戯言だもん。その照れた顔見られただけで充分!」
にっと笑って言ってやった。
良かった、気まずくならなくて。
「うるせぇ、ガキんちょが。今日はやけに素直じゃねーか」
口は悪く言い返してくるが、ボルサリーノの端から見える耳は真っ赤だった。
私がそれに気づくと、次元は押し付けるようにボルサリーノを深く被り直した。
「何となくそういう気分なだけ。」
「そうかい」
「そうだよ」
話は流れたけど、それでいい。
変に気を遣われるより、その方が楽だ。
こういう所、本当に好きだと思う。
最初から、こんなガキんちょが相手にされないことくらい分かってる。
こうして言えただけで良い。
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