甘え下手なわたし、鈍感なきみ。
□ここから始まる新たな関係
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ぐい、と腕を力強く引かれる。思わずふらついた私は固い何かに体をぶつけた。
「なまえ……?」
ふわりとかけられた低く甘い声に、私は顔を上げる。
オリーブグリーンの見開かれた瞳と、かち合う。
黒いニット帽からはらりと零れる前髪は、記憶と同じ様にウェーブがかっている。
「あ、んた、」
「なまえ、なまえだろう……?」
彼はわたしの名前をうわ言のように呟く。
ぎゅう、と腕を握る力が強まる。
私は彼の名前を口に出せないでいる。
「久しぶりだ……本当に」
「ええ、本当……ね。」
声が震える。彼の手の温かさに耐えられず、思わず乱暴に振り払った。
「ねえ、痛いんだけど。」
喉から絞り出した自身の言葉は、思ったよりずっと冷たいものだった。
彼の名は赤井秀一。かつての私のセックスフレンド、つまり体だけ繋げてきた男だ。