甘え下手なわたし、鈍感なきみ。

□ここから始まる新たな関係
1ページ/2ページ



ぐい、と腕を力強く引かれる。思わずふらついた私は固い何かに体をぶつけた。




「なまえ……?」




ふわりとかけられた低く甘い声に、私は顔を上げる。
オリーブグリーンの見開かれた瞳と、かち合う。
黒いニット帽からはらりと零れる前髪は、記憶と同じ様にウェーブがかっている。




「あ、んた、」
「なまえ、なまえだろう……?」




彼はわたしの名前をうわ言のように呟く。
ぎゅう、と腕を握る力が強まる。
私は彼の名前を口に出せないでいる。




「久しぶりだ……本当に」
「ええ、本当……ね。」




声が震える。彼の手の温かさに耐えられず、思わず乱暴に振り払った。




「ねえ、痛いんだけど。」




喉から絞り出した自身の言葉は、思ったよりずっと冷たいものだった。
彼の名は赤井秀一。かつての私のセックスフレンド、つまり体だけ繋げてきた男だ。
次へ

[戻る]
[TOPへ]

[しおり]






カスタマイズ